誕生日祝い(花)*スターマイン番外*

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 今日は朝からついていなかった。携帯のアラームが何故か鳴らずに寝坊するし、なんとか始業のチャイムと同時に会社へ滑り込むも、上司に見つかって怒られてしまった。  追い打ちをかけるように大量の仕事が舞い込み、そんな日に限ってペアを組んでいる飯塚さんが休みときた。  案の定終わらずに定時を過ぎ、半泣きになりながら残業を続けて今に至る。今日は葵くんが家に来るから早く出なければいけなかったのに、どうしてこうなってしまったのだろう。  こっそりと携帯を取り出してトーク画面を見た。残業になると分かった夕方の時点で連絡をし、その返信で了解スタンプが届いている。更に遡れば、朝一で送られている『誕生日おめでとう』の文字に辿り着いた。  この不運続きに対する嘆きは、誕生日なのに、というより、葵くんと会う日なのに、という思いが強い。何日も前からお祝いをしてくれるのだと張り切ってくれていた彼に申し訳ないし、私だってずっと楽しみにしていたのだ。   せめて今日中に終わらせなければいけない分は、超特急で終わらせてしまおう。そう意気込んでメッセージを打ち込み始めたところで、画面の中央に電池切れの警告が現れた。驚いて画面端を見ると、確かに残りが僅か五パーセントになっていた。  おかしいな、昨日ちゃんと充電したはずなのに。そう混乱する頭で考えながらも、袖机を開けてモバイルバッテリーを探す。アラームも鳴らなかったし、調子がおかしいのかもしれない。なにもこんなタイミングで壊れなくてもいいのに、運命は非情だ。  引き出しの中を漁り、数秒沈黙し、撃沈した。常備しているはずのモバイルバッテリーがない。そういえば、随分と前に飯塚さんに貸した気がする。貸してから、帰ってきていない気がする。隣の空席をじろりと睨み、意味のない行動にそっと息を吐いた。 『ごめん、仕事まだ終わりそうになくて』  打ち込みながら、悲壮感が満ちていく。仕事なんて放りだして今すぐ会社を出てしまいたい。 『携帯の充電切れそうだから、連絡とれなくなるかも。今日は延期にしてもらっていい?』 『待っててくれたのに、ごめんね』  送ってからすぐには既読にならないのを確認し、携帯をしまった。深く重い溜息が出る。会いたかったな。仕方ないけど。誕生日はやっぱり、会いたかった。
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