カッチャンは、もう私なしでは生きていけない体になっているんです。だから邪魔しないでください。

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私が彼と出会ったのは、一カ月ほど前の事です。 場所は新宿の電気屋さんの一階。 最近は出会いも多様化していて、インターネットで簡単に出会うことが出来る世の中になりましたが、私たちは電気屋さんの1階で偶然出会いました。 彼から近寄って来たんです。 自慢じゃないですけど、彼の一目ぼれだと思います。 私はいつも最新の流行を気にしていますし、外見はスマートで、自分をいつもピカピカに磨いていましたから、それなりに自信はありました。 彼の外見は悪くないほうだったので、私にはピッタリかなと思い、ちょっとだけ思わせぶりな合図を送ってみました。 そしたら、あとはトントン拍子に話は進みました。彼、見た目はシャイな印象ですけど、結構、積極的なんですよ。その場ですぐに、名前、ニックネーム、連絡先まで教えてくれました。名前は克彦(かつひこ)。ニックネームはカッチャン。最近、地元の市役所に勤めたばかりの23歳の好青年です。 これが、私とカッチャンの出会いです。 彼、とっても優しいんですよ。 出会って直ぐに最新の綺麗な服も買ってくれました。私にはすこし地味で似合っていないと思いましたが、シンプルで綺麗な紺色の服を買ってくれました。本当は花柄とか、キラキラしているのが好きなんですけどね。まあ、キャラクターものを着せられなかっただけラッキーです。私の友達には、服すら買ってもらえない女の子もいるくらいだから、おそらく私は彼と出会えてよかったんだと思います。 カッチャンは、私と出会う直前まで他の女の子と付き合っていたみたい。だけど、そんなことは気にしない。今どきそんな話、珍しくもなんともないし。カッチャン、外見は悪くないから、それはしょうがないかなって思っています。前の女の子と何があったかなんて全然気にしないわ。だけど、カッチャンが、当時の思い出の写真を見ている時はちょっと悲しいかな。でも大丈夫。これから私と思い出の写真を沢山撮っていくんだから。あんな古臭い写真の思い出なんて忘れさせてあげるわ。 それから、この話は、皆さまにお聞かせするかどうか悩んだんだけど、私とカッチャンの関係をよく知ってもらうためには、どうしても必要なのでお話しすることにします。恥ずかしいのでサラッと聞いてください。 カッチャン、夜は頗る長いんです。カッチャンがようやく私を離してくれる頃には、いつも私のエネルギーが尽きています。ピクリとも体を動かすことができなくなります。 特に金曜日の晩なんか、夜の2時、3時まで私のことを離してくれません。布団に入るとすぐに私の体を舐めるようにタッチしてきます。いつまでもいつまでも。その優しい指使いと、間近にあるカッチャンの口から洩れる吐息を受け止めながら、私はカッチャンの求めに従順に応じます。 カッチャンの求めていることに即座に答えるのです。普段、平凡な言動のカッチャンだけど、布団の中で私と二人っきりになった時は、物凄く、偏った要求をしてきます。ゴスロリのコスチュームを求めてきたり、SMプレーを求めてきたり等など…。 まあ、これ以上は、カッチャンの尊厳を傷つけることになるので秘密ですけど。フフフフ。そんなハイレベルな要求をされて受け止めるのか?ですって?何を言っているんですか。全部受け止めてあげるに決まっているじゃないですか。カッチャンはもう立派な大人なんですよ。カッチャンと私の間にある秘め事。秘密の共有をすることで、私たちは離れることが出来なくなるんです。 つまり、カッチャンは、もう私なしには生きていけない体になっているんです。 まあ、のろけ話は、これくらいにしておきましょう。 カッチャンの家でイチャイチャするのも好きだけど、一緒に外出するのも好きです。 私はカッチャンにイケてるお店を紹介したり、おすすめ・流行りの商品を教えてあげるの。カッチャンったら私が教えてあげないと何も知らないし、流行おくれのダサい商品買っちゃうんだもん。まあ、市役所勤めなら、そういう所もしょうがないかなって思うけど、私の彼氏としては、外見や行く店もスマートに決めてほしいわ。 お支払いは全額カッチャンの稼いだお給料だけど、財布を管理しているのは私。私はカッチャンにお勧めの商品を紹介してあげるだけ。 「嫌な女」「悪女」ですって? どうしてそんなこと言うんですか。これはカッチャンが望んだことだし、私はカッチャンの求めに応じているだけなんですよ。私もカッチャンもそれで幸せを感じているんです。 私たち二人の関係に水を差すのはやめてください。カッチャンもそんなコメントは望んでいませんよ。 もうカッチャンは、私なしには生きられない体質になってるわ。大成功。フフフフ。 この前も、カッチャンが合コンに行った時の話なんだけど、ちょっとだけ可愛い女の子がカッチャンの隣に座ったの。私、沢山メッセージを出してカッチャンがその女に篭絡されないように頑張ったわ。 『先日、検索していたゲームについて、期間限定の割引セールが実施されます。お早めに下記URLをクリックしてください』 『先日ご購入いただいた商品について、簡単なアンケートにお答えいただければ、1000円分の商品券をプレゼント』 カッチャンは、隣の雌狐に目を合わせることなく、私をだけをタッチし、私だけを見てくれたの。私ばかりを触っていたおかげで、隣の雌狐は興醒めして、不満そうな顔をしてどこかに行ってしまったわ。いい気味。私のカッチャンに横恋慕するからよ。私の勝ち。カッチャンは私の大事な“お客様”…おっと失言、“彼氏”なんですよ。 お客さま? あれっ、てへっ♡ バレちゃいましたかね。 私の仕事は、彼氏の要求に素早く応じ、彼氏の好みや思考を全て吸収・予測し、彼氏のために最適な商品やお店をスマートに紹介すること。そして、私の提案した通りにカッチャンは消費すればいいの。カッチャンは最高のお客様よ!! 自己紹介が遅れましたが、私はスマートフォンの中に住んでいる『アル子』といいます。 「アル子さんは、どうしてそんな仕事をしてるのか?良心が痛まないのか?」ですって。 あなたも野暮なことを聞きますね。良心が痛むわけないじゃないですか。だって、アル子を購入したのはカッチャン自身で、これはカッチャンが望んだことなんです。別に私から別れてもいいんですよ。 でも今のカッチャンは、私なしの生活に何時間耐えられますかね。 もう私は、カッチャンの「おしゃぶり」みたいな存在になってしまったんです。 私がいなくなったら、カッチャンは不安で不安で、赤ん坊のように大泣きするかもしれませんね。 私はお客様の要求に応えたいからこの仕事をしているだけですよ。フフフフ。 おわり
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