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プロローグ 僕の彼女は、耳が長い。
いつも、海を見ているはずの彼女も僕も今日は、海を見ていない。
「あの木が、ナンキンハゼ。県の木で、秋になったら紅葉がとても綺麗なんだよ」
僕は、彼女に言葉を返さず、ただ黙って頷く。そんな僕を見て、彼女がふふっと笑みをこぼす。
「なんか君にこうやって、植物について教えるの初めてかも」
彼女は、いつものように楽しそうに話している。「これも、二百年間のお勉強の成果だね」と笑えない重い話をネタにしながら、ずっと山のところどころに生えている木を、僕に説明してくれていた。
そうこうしながら歩いているうちに、僕と彼女は、彼女の言う目的地に到着していた。
すでに、辺りは暗くなり、街灯の灯りだけが周りの木々と一緒に、僕と彼女を照らしている。
「ここが、目的地?」
僕は、彼女にちょっとキレ気味で、そう訊ねる。こんなキレ気味で、質問を彼女にした理由は、何処からどう見ても、木々に囲まれている場所でしかないところに、連れてこられているからだ。
「そんなぷりぷりしない。私が精霊術師なの覚えていない?」
彼女は、そう言うと何かを唱え始めた。これは、彼女曰く、エルフが風の精霊を呼び起こし、魔法を使うためにどうしても必要なことらしい。
「異なる世界の精霊よ。我の声に念じ、今こそ、風を呼び起こせ」
彼女の声に応じて、風が吹き始める。
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