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翌日、夏五は、すっかりなすべきことをやり終えました。
そして今、夏五は、学校の昇降口の前に、やっとのこと立っています。
——やがて、登校してきた花鈴を見つけると、夏五は近づいていき、いいました。
「花鈴ちゃんごめんよ。はい、これ、花鈴ちゃんの帽子。本当は僕、はじめからこうしたかったんだ。本当に本当にごめんよ」
「夏五ちゃん、どうしたの! そのお顔!! その服!! 誰かとけんかでもしたの?」
夏五の顔は、すり傷や青あざだらけで、それはそれはひどいありさまだったのです。服も汚れ、えり元は破けていて、本当にぼろぼろのぞうきんのようなありさまなのです。
「……ううん、なんでもないよ。ちょっと転んだだけ」
「転んだって……」
花鈴は、はっとして、急に口をつぐんでしまいます。
そして黙って夏五を見つめました。
しばらくの間、そのまま夏五を見つめつづけていました。
夏五も、傷だらけの顔に満面の笑みを浮かべて、花鈴を見つめました。
「…………」
やがて花鈴は、帽子をさし出す夏五に、静かな笑みを投げかけていました。
「……ありがとう、夏五ちゃん」
そういって花鈴は、夏五に近づくと、背を伸ばして、その頬にそっとキスをしたのです。
夏五は、そのとき、どんなにうれしく思ったか、自分をどれだけ誇らしく思ったか、わかりませんでした。
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