十円プレス

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「見たか?」 「見た」 「俺も」  ヒロたちが下駄箱の前でヒソヒソやっていた。 「なんだよ、なに見たんだよ」  ヒロたちが顔を見合わせる。 「見てねえんだな、イサ」 「だから、なんなんだよ」 「ばか、声がでかいよ」 「十円プレスだよ」  ヤスが言った。 「十円プレス?」 「だから、声がでかいって!」 「タカオの兄ちゃんが作ったんだよ」  ヤスが声を落とした。 「十円玉を線路にのっけて、走って来る電車にひかせる」  頭の中に踏み切りが現れて、オレンジ色の電車がゴオーーーーーッと風を巻き上げて走っていった。 「やばいじゃん」 「やばいんだよ」 「うすっぺらなんさ。十センチはあるな」 「ピカピカしてんだぜ」  ヒロが言い終わる前に俺は4―1に向かって走り出した。  イサ君、廊下は走らない!  だれだ、ケイ子先生か?  俺は聞こえない振りをして4―1に飛び込んだ。  タカオは教室にいた。ランドセルから教科書を出していた。 「タカオ、俺にも見せてくれ」 「なにを」 「だから、あれだよ。十円――」 「しっ!」タカオは俺をさえぎった。「ばか、ばれたらどうすんだよ」  どの教室にもチクリ屋はいる。俺は周りをたしかめて、タカオに顔を寄せた。 「で、持ってるのか」 「学校に持ってくるはずねえだろう」  放課後、野球の練習が終わったら見に行くことになった。タカオとは家の方向がちがう。一緒に行くことにした。
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