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 切れ長の、どこか冷たい双眸がマウンド上を見据えている。その眼差しには突き放すような厳しさを感じたが、そのおかげで打者との対戦に集中できる。  きっと大介ならどんな状況に陥っても最後までトランペットを吹き続けられるだろう。たとえば自分が、歴然とした力の差を恐れながらも再びマウンドに登ることをためらわなかったように。  俊也はマウンド上で大きく息をつき、伊藤の出すサインをのぞき込んだ。去年まで組んでいた他校の捕手はあまり直球の力を信じてくれなかったが、校内でボールを受けてくれた伊藤は違う。試合前から、直球を主に投げてもらうと言っていた。リードはその言葉通りのものだった。  変化球より軌道の変化が少ない分、直球の方がストライクを取りやすい。後ろにいる選手たちも、応援席の少年も、全て南原高校の生徒たちだ。相手の力に立ちすくむ自分の背を、それぞれのやり方で叩いてくれる気がした。  いきなりの劣勢ではあったが、去年とは違う試合状況に俊也は大きな価値を感じた。
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