4/19
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
 高校野球の常識からすると、一塁側の応援席で行われていることは妙かもしれない。ブラスバンドやチアリーディングなどの部活から構成される応援団が、音楽や踊りによる応援をするのが一般的だが、自分たちを応援するのはただ一人のトランペット奏者だ。演奏の迫力はブラスバンドと比べるべくもないが、音を聞く限り一人きりの演奏に臆する様子はない。その気持ちが伝わることで士気を保っていられる選手がいる以上、彼がしていることは立派な応援であった。 「本当に一人でやってるんだな」  クーラーボックスから取り出したスポーツドリンクで喉を潤していると、バッテリーを組んでいた伊藤が天井を見ながら言った。音の聞こえ方から察するに、彼の真上に奏者はいるようだった。 「うちの学校にもっと理解があれば、一人でやることはなかったんだけどな」 「それでもやってくれてるなら、ありがたいじゃないか」 「ああ、頭が下がるよ」  二番の藤井は追い込まれた後、一球ファールを打ったが、それ以上の粘りは見せられず見逃し三振に倒れた。次の打者が入ると再び曲目が変わる。奏者なりの工夫を感じた。 「お前が頼んだんだろう、何て言ったんだ」
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!