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 俊也が毎日使う駅に隣接する商業施設は有名で、休日練習で学校へ向かおうとすると朝から親子連れとすれ違う。客待ちをするタクシーがいつも停まっているし、平日でも賑わいを感じるが、全て北口での話だ。学校へ向かおうとすると、その賑わいに背を向けることになる。  南口を出てから進むのは、上り坂も含む徒歩二十分の道のりである。片側三車線の県道を渡りきると、山裾へ向かう道を横目にして正門に向かう。霊山としての歴史が深い山の麓にあるおかげで、全校生徒は年に二回のゴミ拾い登山をしなくてはならない。一日中夏山登山をさせられた後にいつも通り走り込みをする羽目になった時などは、南原高校に入学したことを後悔した。  高校選びを失敗したと悔やんだのはその時だけではない。高校で硬式球を握ろうと思った俊也が行きたかったのは県内上位常連の学校であったが、一般入試に落ちてしまい、滑り止めの南原高校に行くことになった。その高校の野球部が、新入部員を入れても八人にしかならない弱小チームだと知ったのは入学後であった。
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