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幕間 第2話 魔王軍四天王レミリアとプランツ革命政府
ここはプランツ革命政府が置かれているプランツシティである。
その旧プランツ王宮に、魔王軍四天王レミリアと≪レミリア三騎≫の1人であるアルムが、さらに元プランツ王女にして魔王軍幹部のテオドラも訪れていた。
「ようこそおいでくださいました。魔王軍四天王レミリア閣下。それに魔王軍上級幹部アルム殿」
そう挨拶するのは、プランツ革命政府代表のドミニクだった。
そのドミニクの横には、行政委員会委員長のレームに、そして王太子であったギヨームもいる。
ギヨームの姿を目にしたテオドラは、表情を変え驚いた。
「プランツ革命政府代表ドミニク閣下。ご挨拶ありがとうございます。それにレーム首相に、ギヨーム王太子殿下も」
レミリアがそう返事をする。
そして革命政府代表のドミニクと、王権の代表者たるギヨームも同席した会議が始まったのである。
「まずプランツ革命政府より、ご提案いたします」
そういうのは、レームである。
彼は資料を、レミリアとアルムに渡した。
そこに書かれている内容は、プランツが【魔王領】に併合されることを自ら願いでたものである。ただし、極めて高度な自治権を保持した状態であることを条件としたものであるが。
「プランツ自ら、併合を願い出るというわけですか」
と、レミリアが言う。
「ええ。ただ高度な自治権は保持していただきますがね。そのほうが、プランツ市民の反発も抑えられることでしょうから」
レームが今言ったことは、レミリアにとってはとても魅力的な話であった。
現地の住人の反発をなるべく抑えよというのが、レミリアがティアレーヌから与えられた至上命題だからである。
因みにこの交渉についてレミリアは、ティアレーヌから全権を与えられている。
「私個人としては、異存ありません。しかし、私たち魔王軍としては直ちに、プランツに軍を駐留させたいのですが」
【アリバナ王国】【マライツ王国】【エザレム王国】の3王国連合軍が集結している手前もあり、魔王軍としても悠長にことを構えている場合ではないのだ。
「なるほど……。やはり【アリバナ王国】などの動向が気になりますか? 」
レームがそう言う。
ドミニクは、何も言葉を発しない。
「ええ。3王国連合軍は、今にもこのプランツを攻めようと西ムーシの町付近に集結しているわけではありませんか」
「確かに。我々プランツ革命政府としては、とても頭の痛い話しです。ですので、プランツ市民軍を解散することは現実的ではありませんよね」
「プランツ市民軍ですか……」
「我々としては、今すぐにでも魔王軍に駐留していただきたい。しかしプランツ市民軍も存続させていただきたいのです。プランツ市民が、自らプランツを守ろうとする郷土愛の心を潰さないで欲しいのです」
レームの目的は、プランツ市民軍を存続させることであった。
それが、国防省から与えられた任務だからである。
「そうですね……。魔王軍の一部隊としてプランツ市民軍を存続させるということでしたら、構いません。また、プランツ市民軍の指揮官は、魔王ティアレーヌ様が任命された者ということにさせていただきます。さらにプランツの代表も、魔王ティアレーヌ様によって任命するということにいたしますが、それでよろしいですね? 」
いかに、現地の住民たちの反発が起こらないようにしたいと言えども、勝手気ままに、自治権を与えるわけにはいかないだろう。
ところで【魔王領】本国内における、各自治体の長や議員は、その各自治体の住民たちを任命者としている。これは地方自治に関する勅令(帝政時代に施行され、魔王ティアレーヌの異議はない)に定めらているのだ。
首長の任命者を住民ではなく魔王にするという点で、プランツは異なる体制になる。
「わかりました。それで構いません」
レームはそう言った。
そして、【魔王領】と【プランツ】の間に併合条約とそれに関連する条約が締結されるのであった。
条約文書には、プランツ革命政府代表のサインのほか、プランツ国王の王爾による調印(王太子兼摂政であるギヨームによる調印)も為されたのである。
※
プランツ革命政府との会談を終えたレミリアは、レームの案内で大量に建設された厩舎を視察した。さらにその後、プランツ市民軍の訓練様子を閲兵することになったのである。
レミリアは、プランツ市民軍が訓練する様子に驚きのあまり、唖然としてしまった。
「あれは、戦列歩兵でしてね。1カ月程度で訓練させましたが……既存の魔王軍にはない部隊でしょう? 」
と、レームがレミリアに対して言う。
「せ、戦列歩兵……? 」
レミリアは、戦列歩兵という概念は知っていた。
国防軍が一時期、そのような部隊編成を行ったことがあるからだ。レミリアは国防軍の資料を見たときに知ったわけである。
「ええ。戦列歩兵です。軍楽隊の行進曲に併せて、一斉に徒歩で行軍するわけですよ」
「なるほど……」
そして、銃声が鳴り響く。
マスケット銃による一斉射撃が行われたからである。
「あれは、マスケット銃と言いましてね。火薬を用いた武器なのですよ。それで先端には銃剣というものが装着されておりまして、あの銃剣の意味は、突撃による白兵戦を意図したものです」
レームがそういう。
レミリアは、直ぐに頭の中で言葉を置き換えた。マスケット銃が、国防軍用の魔法杖だとすると、銃剣は、杖剣に相当する。
「随分と手際の良いことですね? 例えば大量に建設された厩舎。しかも大量の馬草も用意されている。何と言いますか、私の率いる軍団が、いずれこのプランツの地に駐留することを想定しているみたいですよね」
「いや、厩舎建設の発注者は西ムーシ商会でしてね。実際に発注があったのは、プランツ革命よりも前の出来事だと聞いています」
今のレームの発言は、真実である。
実際にレームの預かり知らぬところで、西ムーシ商会が厩舎建設の発注を行ったのだ。
「そうですか……。ですが、あの戦列歩兵は一体どういうことですか? あのような運用をする軍隊となると、どうしても思い付く組織があるのですけど……。それに、あのマスケット銃という武器はどのようにして、手に入れたのでしょうか? 」
「マスケット銃については、企業秘密です」
「マスケット銃の出所について、白状しなさい。そうしなければ、先ほど締結した条約をさっそく破棄することも検討せざるを得ないわ! 」
と、レミリアは脅しをかけた。
「レミリアさん。近代国家たる【魔王領】が、迂闊に条約破棄などありえませんよ? 」
「近代国家という言葉を……あまり使う人はおりませんよね? けれどもレームさんは、癖でうっかり使ってしまったのでしょうか。ともかく、条約破棄を検討いたします」
近代国家という言葉をよく口にするのは、国防軍将校か、【魔王領】の中央省庁に勤める官僚くらいなのだ。
「……わかりました。マスケット銃については、私以外の判断を仰ぐ必要があります。お伝えするのは、それからでよろしいでしょうか? 」
「誰に判断を仰ぐのでしょう。ドミニク議長閣下ですか? 仮に彼なら、今すぐここに呼んで、ご判断を仰げば良いと思いますよ」
「お願いですから、もうこれ以上は追及しないでください。判断を仰いだ後に、お伝えします」
度重なるレミリアからの追及に耐えられなくなったレームは、レミリアを閲兵場に残したまま、直ぐに自身の執務室へと赴き、国防省に連絡を入れたのであった。
その後、国防省から了解を得たレームは、愛国商会株式会社という【魔王領】にある大企業にマスケット銃を発注したのだと、レミリアに伝えたのである。愛国商会株式会社という言葉に反応したレミリアは、鋭い目つきでしばらくレームを睨め付けたのであった。
※
魔王軍とプランツ革命政府の会談が終わった後、テオドラは急いで元王太子のギヨームのところへと向かった。
「ギヨーム! 無事だったのね? 」
テオドラはギヨームの手を取り、そう言った。
とても心配していたわけである。
「僕は無事ですよ」
「革命政府や市民たちから何かされていない? 虐待とか受けていない? 」
革命の対象は、あくまでもプランツ王家だ。
その王家の王太子であったギヨームは、無事では済まされないと考えるのが普通であろう。現に革命政府樹立の前日、のぼせあがった市民たちはギヨームを殺せと叫んでいたわけでもある。
「特にひどい目にはあってはおりません。元々、プランツ革命政府の目的は【魔王領】に併合されることですからね。一応、正統性も考慮して、王太子にして摂政であった僕も生かされていたわけです」
と、ギヨームが言う。
「そういうわけだったのね。だけど、貴方が無事で良かった。もう辛い役目も辞めて、貴方も私と一緒に来なさい」
「姉上。それは無理です」
何故なら、ギヨームは国防軍情報部の少尉なのだ。
上官であるレーム中尉を差し置いて、勝手な行動はできないわけである。
「どうして、そんなことを言うの? 」
そう言う姉に対して、ギヨームは懐から身分証を取り出した。
「僕が国防軍情報部に所属しているからですよ」
すると……
すると、テオドラはその場で号泣したのであった。
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