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俺は今日も神社へと向かう。あの日以来、毎日ここへ通い詰めていた。今更事務所から自転車を禁止され、徒歩で向かう道はいつも俺を後悔と緊張で責め立てる。事故の時と同じアングルで神社の石段を見ると、今でもあの風景が一瞬フラッシュバックする。でも次の瞬間には片付けの済んだ、澄ました風景がそこにある。それがまたひどく辛かった。でも俺はこの神社しか知らなかったし、願いを叶えてくれるならここしかないと思った。つばさに会わせてくれたのもこの神社の神様だから。
落ち葉の降り積もった急な石段を早足で上がり、鳥居をくぐる。一礼はしなかった。御手洗の前を素通りして本殿の前に立ち、ガラスが嵌められた古びた引き戸に遮られた、本尊を睨むように見る。ポケットに入れてきた賽銭を放り込み、握り込むように手を合わせた。憎しみと信心は、胸の奥に渦巻くように同居していた。それでもこの時だけは全力で信じて、また神に祈る。
つばさの命を助けてください。そうしたら、つばさと一緒に生きていけるから。
別れることなんて考えたくもなかった。だって何も心の準備ができていないから。俺が芝居の道を離れたら、つばさとも離れてしまうだろうと覚悟はしていた。でも早すぎる。今じゃないだろう。二度と会えないのと、会えるけど会わないのはどちらが悲しいかなんて俺にはわからない。でもとにかく今じゃないことは確かだった。何でもいい。つばさが前のつばさじゃなくてもいい。エゴかもしれないけど、つばさに生きていてほしかった。
俺は弱いから、きっとこれからも何度も何度も神に祈るだろう。その願いはきっと叶ったり叶わなかったりするのだろうが、こんなにも切実な願いはきっとない。叶えてくれなければ存在価値などないのだと、神を罵倒してでも懇願することはこれから先きっとない。
だから、頼むから。叶えてほしい。
ゆっくりと目を開けて、静かに息を吐いた。煙のような白い息が空気中に散り消えていく。踵を返して本殿の前の石段から飛び降りると、早足で神社を出る。今日もつばさに会いに行こう。学校も稽古もどうでもいい。今はただ、つばさに。
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