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教会は、静けさに包まれていた。
たちこめる濃い煙をぬって、穴のあいた天井から雪が舞っている。
大量の盾を床に落としながら立ち上がったのは、メネスだ。
体中のほこりを払いながら、メネスはため息をついた。
「まったくもう。あれだけあったフィアが、すべて壊されてしまった。また一から作り直しか……いや」
メネスは意味深な笑みを浮かべた。
さいごまできちんと鞘に納めた刀を手放さず、それを杖代わりにして、ミコは片膝をついたまま機能を停止している。その全身をハリネズミのように飾る予備の刀を順番にながめつつ、メネスは独りごちた。
「やはりぼくの計算は正しい。結果的に黒野美湖は手に入れた。彼女の貴重なデータを取り入れて、また人形作りにはげむとしよう。あとは褪奈くんだな……またうまく逃げおおせたか。こんどはどこへ?」
「ここだ!」
気づいたときには、メネスの頬桁は深々と右ストレートに打ち抜かれている。投下される刀の雨を防ぎきった〝妖術師の牙〟を体から払い落とし、煙のベールを裂いてヒデトが現れたのだ。
めりこむ拳に顔をゆがめたまま、メネスはつぶやいた。
「な、なん、だと? ぼくは、この世界を救おうとしているのに……邪魔だ」
「うるせえ! 消えろ! 〝黒の手〟!」
いんいんたる怨嗟の声とともに、メネスの体は指先から光の粒子に変じて消えた。
触れていたものが異世界へと返り、ヒデトはそのまま前に転んでいる。
色とりどりのステンドグラスを背景にした十字架の下、刀の人形は彫像と化して動かない。雪のつもる彼女の名を、ヒデトはひざまづいたままただ反すうした。
「ミコ。なあ、ミコ?」
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