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「痛ってー」
翌朝、レナが店の厨房で簡単な朝食を作っていると、泥酔客が頭を抱えながら目を覚ました。
「大丈夫? ほら、これ飲んで」
レナが未開封のスポーツドリンクを差し出すと、客はキャップを開け、一気に飲んだ。
「サンキュー、助かった。って、ここ、どこだ?」
驚いて周囲を見まわす泥酔客に、レナはため息を吐く。
「お兄さん、何も覚えてないの? ここは私の店、ラブローズ」
レナの答えに、客は全く違う言葉を返した。
「ん? お姉さんって男か?」
「そうよ。昨日、閉店までウチの店で飲んでて、今更何言ってるのよ」
「昨日……ああ、そうか。俺……」
そう言って客は、黙り込んでしまった。
レナは、両手を広げて肩をすくめると、用意した二人分の朝食を運ぶ。
「何があったか知らないけど、とりあえず何か食べたら。あり合わせだけど、よかったらどうぞ」
そう言って勧めると、客はきちんと手を合わせ、「いただきます」と言って口をつけた。
「俺、閉店までいてここで寝てたってことは、金払ってねえな。すまん、いくらだ」
朝食を食べ終えた客は、そういって慌ててポケットから財布を取り出す。その拍子に、パスケースがレナの足元に落ちた。
レナがパスケースを拾う。中には運転免許証が入っている。
「お兄さん、若松郁弥っていうの。じゃあ、いくちゃんね。あ、私はこの店のママで、レナって言いまーす。本名は熊崎源悟ね」
そう言ってレナは、豪快に笑った。
郁弥から昨夜の代金を受け取ったレナは、レジに現金を仕舞う。昨日の締めで売掛にしてあるから、後から入金処理をすればいい。
「それじゃあ、私は一回家に帰るけど、いくちゃんは? ちゃんと帰れる?」
「ああ、」
レナの問いに、郁弥が短く答える。そうして二人は、店を出たところで、それぞれ別の方向に歩きだした。
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