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「はぁ、やっちまった……」
レナの店を出た郁弥は、一人ため息を吐いた。記憶が無くなる程泥酔したのは、何年振りだろう。しかも、自宅では無く、店でやらかしてしまい、あのレナという店主に迷惑を掛けてしまった。
帰る家の無い郁弥は、これからどうしようかと思案し、目についた不動産屋に飛び込んだ。
しかし、結果は芳しくなかった。
正直に話したのがよくなかったのか、免許証や住民票の住所に住んでいないのならば、契約できないと言われたのだ。
気は進まないが、書類上だけでも父の住所を借りようかと悩みながら店を出る。すると、先ほど別れたばかりのレナがいた。
「いくちゃん? そんなところから出てくるなんて、全然大丈夫じゃなさそうね」
「レナ、さん、どうして……」
反対方向へ向かったはずの彼女が、どうしてここにいるのか。郁弥の問いに、レナは両手に提げた買い物袋を見せた。
「買い物があるの、忘れててね。それより、昨日から何か、訳ありっぽいじゃない。私でよければ、話聞くわよ」
郁弥は、これも何かの縁だろうと、レナの言葉に甘えることにした。
「妹思いなのね。それで今は、住む家が無いんだ」
レナの部屋に招かれた郁弥は、気付けば自身の事情を全て打ち明けていた。
高校生の頃、両親が離婚したこと。
表向きは父に引き取られたが、高校では寮生活だったため、一緒には暮らしていないこと。
当時中学生だった妹の進学のため、自分は高卒での就職を決め、警察官になったこと。
十年間勤めた警察を、同僚の不祥事に巻き込まれる形で、退職を余儀なくされたこと。
つい頭に血が上り、必要な手続きを経ずに、退寮してしまったこと。
警察に入ってからも寮住まいだったため、自身の家と言える場所がないこと。
「ああ。父は再婚して別の家庭があるし、母と妹は、女性専用マンションに住んでいるから、頼れない」
家が無いから借りようとしているのに、住所が無ければ、家を借りられない。
「それじゃあ、しばらくウチにいればいいじゃない。ちょうどお店で、裏方の雑用やってくれる人がいると助かるなと思ってたとこなのよ」
深刻な顔で悩む郁弥に、レナは笑って、事も無げに告げた。
「「「いらっしゃいませ。ラブローズへようこそ」」」
レナ達が客を迎える声が、店内に響く。
ラブローズは、オーナーであるレナの他、正規キャストはミリアとマリナの二人で、この三人は、大抵いつも出勤している。
後は、何人かのアルバイトが交代で出勤したり、イベント時などには、スタイリストや美容師、ダンサー等他の仕事をしているメンバーが、ヘルプに入ったりする。
ちなみにアルバイトの多くは、そういった仕事の見習いやアシスタントが多い。 皆、話が上手く聞き上手で、客達は来店時よりも帰る時の方が、心からの笑顔を浮かべている。
郁弥は、カウンターの奥で目立たないように、皿洗いもといグラス洗いに励む。
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