大坪さん家の遺品整理

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「はい。いつもなら父と二人で行うのですが……あいにく、商品の買い付けで海外に行っておりまして。かなりの蒐集家の方で、一人では動かせないアンティーク家具も、数多くお持ちなのです。中には、表に出せないものもあるという噂で……」 「それは、盗品か?」  言葉を濁した恵一に、郁弥は前のめりになり、思わず、前職の口調が出てしまう。 「証拠はありません。それに、ご本人は知らずに購入している可能性が高いです。ですが、万が一そういったものがあった場合、本来の持ち主にお返しすべきです」  恵一は、毅然として断言した。  その言葉に郁弥は、目の前の男が、自分の商売に誇りと信念を持っているのだと確信する。骨董品に限らず、古物の取り扱いは、常に盗品が紛れ込む危険性がある。そのため、古物商の多くは、当然客の身分証明を求めるし、骨董品を取り扱うとなれば、物だけでなく、客自身に対する鑑識眼も要求される。 「なるほどな。それで、俺を」  郁弥は、恵一ではなくレナを見た。 「いつも涼しい顔してる栗ちゃんがね、珍しく悩んじゃってるから、どうしたのかって問い詰めてたのよ。ほら、ここは、外じゃ言えない愚痴とかそういうの吐き出てもいいから」  そう言ってレナは、微笑んだ。 「ありがとうございます。作業の手伝いだけでも有り難いのに、元警察の方ともなれば、まさに百人力」 「そ、それ程でもねえけどな。一応、全部じゃねえが、ある程度デカい盗難は、だいたい頭に入ってる。それに、世間に公表されていない事件もある」  恵一に頭を下げられた郁弥は、照れくさくなって頭を掻いた。  郁弥が、恵一から連絡をもらったのは、それから5日後だった。遺族の都合がついたため、この週末にでも来て欲しいという。  月曜日も祝日で、世間的には三連休だ。遺族は早めに片付けたいらしく、三日間全部立ち会うから、それで全て引き取って欲しいとのだという。  隣で電話を聞いていたレナが、店のことはいいからと休みをくれた。
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