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「なるほどな。何か、気になるものはあったか」
「全部と言えば全部ですね。うちの店で売った記録があるものもありましたが、そうではないものも多い。それに、生前のご様子からすると、あれほど節操なく集める方ではないように思います」
郁弥の問いに、恵一は生前の大坪氏を思い出す。一つ一つの品を大切にし、どんなに気に入っても、必ず吟味してから購入を決めていた。
「つまり、大坪氏のものではないと?」
「ええ。念のため他の骨董店に、販売した記録がないか確認しています。それと、盗品の噂のあるものや、贋作が多いと言われるものもありました。郁弥さんは、どう思いましたか?」
「そうだな。骨董の価値は分からねえが……何となく『クサい』気がする。俺は、あの甥という奴について調べてみようと思う」
盗品や贋作が疑われるものは、特に慎重に鑑定しなければいけない。今日見た限りでは、まだ、『疑い』段階だ。
恵一は、元警察官の勘という自分とは異なる理由で、郁弥が自分と同じ印象を持ったことに安堵した。
「ああ、なるほど。では、そちらはお願いしていいでしょうか。明日は、私一人で大丈夫ですから」
「わかった。くれぐれも気を付けろよ」
「はい。郁弥さんこそ」
そうして恵一は、明後日は搬出もあるから、できれば人手を集めて欲しい旨を伝えた。
翌日、一人で大坪邸を訪れた恵一は、小野木の立ち会いの下、遺品の査定を進めた。立ち会いと言っても、個々に説明したのでは日が暮れてしまう。そのため恵一は、小野木とは最低限の会話を交わすのみに留め、実物と照らし合わせながら、目録に査定額を書き込んだ。
「細かい計算は明日、お持ちします。おそらく、総額1000万程になる見込みです」
恵一は、やや低めの総額を伝えた。実際には、もう少し高値で買い取れるが、2000万には届かない。それに、買取不可の品もあるから、その処分費用を請求するとなると、実際、小野木に渡るのはそのくらいになるはずだ。
盗品が疑われる物や、明らかな贋作も多い。しかし恵一は、そういった素振りは一切見せないよう、気を配った。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
小野木は金額に満足したのか、それ以上は何も言わなかった。
3日目。この日はいよいよ、大坪氏のコレクションを搬出する。
恵一が人手が必要だと言うと、郁弥は任せておけと、10人程の作業員を連れてきた。
約束の時刻。
小野木仁志が、現れた。
搬出のために集められたはずの作業員達が、小野木を取り囲む。
一人が、警察手帳を見せた。
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