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「小野木仁志、いえ塚田一さん、事情をお伺いしたいので、署までご同行願えますか」
小野木は、ひぃっと小さな悲鳴を上げ、作業員達を押しのけて逃げようとした。
「おっと、逃がさねえぞ」
郁弥がすかさず、小野木の腕を掴む。
「公務執行妨害で逮捕する」
作業員の一人が手錠を取り出し、小野木こと塚田を拘束した。
作業員達は、郁弥の元同僚、つまり現職の警察官達だった。
その日の夜。
本来定休日のラブローズは、貸し切りとなった。
「ええっー、それじゃあ、その甥は別人だったの」
事件の顛末に、レナが珍しく、唖然とした表情を見せた。
「ああ。塚田は詐欺罪で服役した後、性懲りも無く次の獲物を狙っていた。そこで目を付けたのが、子供がいない大坪泰三だ。その妹の小野木家を調べると、小野木氏は既に亡く、夫人は末期の癌。しかも息子は、都合のいいことにバックパッカーで勘当状態。当然、音信不通だった」
郁弥は、一度ため息を吐くと、説明を続けた。
そこで塚田は、息子の仁志だと言って小野木夫人を見舞った。既に意識が朦朧とし、認知症も進行していた小野木夫人は、本当の息子かどうか判断がつかなかったらしい。
あるいは、気付いてはいたが伝える術が無かったか、気付いていても認めたくなかったのかもしれない。
塚田は小野木夫人を最期まで看取り、小野木仁志として、その遺産を手にした。その際、大坪泰三にも会い、無事に甥として認められていた。
年に何度か、塚田は大坪氏を訪ねていたという。大坪氏所蔵の盗品や贋作は、塚田が持ち込んだものだった。
いずれ、大坪氏の遺産も手中にする計画だった。それに加えて、多くの骨董品が並ぶ大坪邸は、盗品や贋作の隠し場所に最適だった。
しかし、本物の小野木仁志が帰国していた。旅先で知り合った女性と結婚するため、戸籍謄本を取り寄せ、母の死を知ったのだという。
勘当状態だったとはいえ、急遽帰国した小野木仁志は、母の遺産が、自分を名乗る別の人物に渡っていると知り、警察に相談した。
そこへ郁弥が、元同僚である警察官に、大坪氏の甥の話をした。
本物の小野木仁志が、間違いなく大坪氏の甥であるとわかり、今回の逮捕劇に至ったのだ。
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