1569話 どうして最初から

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1569話 どうして最初から

「……死ぬぞ? お前」  俺は言う。  捨て身の攻撃には、確かに驚かされた。  だが、致命傷には至っていない。  対照的に、景春はボロボロだ。  腹に深い刺し傷があり、両腕は焼け爛れてしまっている。  もはや死に体だ。 「余は負けぬ……! この秘奥義を発動した今、余に敵はない!!」 「秘奥義……か」 「いけ! 【血統妖術・桜吹雪】!!」  景春は叫ぶ。  その膨大な妖力で生み出された花びらが、彼の周囲に舞った。 「ふむ? よく分からんが……妖力の密度が上がっているな」  俺は分析する。  彼が発動した秘奥義は……確か『神霊纏装・木花咲耶姫』だったか?  どこかで聞いたことのある神の名だ。  じっくり思い出す時間があれば、思い出せるかもしれない。  だが、今は戦闘中だ。  観察や考察は後にするべきか……。 「くっ! おのれ! 余裕ぶりおって! 何故、避けぬ!?」 「避ける必要がないからだ」  先ほどの顎への一撃は、カウンターで食らった。  攻撃に意識と魔力を割いた隙を狙われたのだ。  その後の大技も、危うかった。  顎への攻撃で脳が揺れており、魔力などによる防御耐性が乱れていた。  しかし、今は違う。  油断なく『炎精纏装・サラマンダー』を維持している状態では、彼の攻撃は俺に届かないのだ。  大技『神霊纏装・木花咲耶姫』とやらによって強化された今の彼でも、『素の実力差』や『火と桜の相性差』を覆すことはできない。 「さて……」  改めて、『豪熱球』で攻撃していくべきか?  いや、またカウンターをくらうのは避けたい。  両手で攻撃する以上、どうしても顎や体はフリーになってしまうからな……。  安全に仕留めるなら、遠距離魔法か、あるいは瞬速の居合い切りあたりか。  だが、景春には『散り桜』がある。  低威力の攻撃は無効化される。  かと言って、魔力や闘気を込めすぎると跡形もなく吹き飛ばしてしまうだろう。  いい感じの威力に調整できたとしても、今度は当たりどころの問題がある。  景春が下手に動くと、ボディを狙った斬撃で首を切り飛ばしてしまう……なんてこともあるかもしれない。 「……なぁ、ちょっと気になったんだが」 「戦闘中に雑談か!? どこまでも舐めおって――」 「その大技、どうして最初から発動しなかったんだ?」 「――っ!!」  俺の指摘に、景春は目を見開く。  格下ならともかく、格上との戦闘で出し惜しみは愚の骨頂だ。  俺は景春との戦闘前に、樹影とかいう桜花七侍を目の前で撃破している。  それを目の当たりにすれば、出し惜しみなんかできないはず……。 「なぁ、どうしてだ?」 「……発動準備に時間を要しただけだ」 「ふーん? ずいぶんと素直に話すじゃないか。しかし、時間ねぇ……」 「くっ……! 何が言いたい!!」 「いや? 俺は妖気を察知する能力もそこそこあってな。大技の発動を準備している気配なんて、何も感じなかったからさ」  俺は『ステータス操作』のチートスキルを持っている。  残念ながら、『妖力察知』というようなそのものズバリなスキルは持っていないし、『火妖術』なども未習得だが……。  これまでに『魔力強化』『闘気術』『気配察知』『視力強化』『聴覚強化』などといった多種多様なスキルを取得してきた。  それぞれのスキルには、多かれ少なかれ副次的な恩恵がある。  妖力関係のスキルは未習得でも、その全てを一切理解できないわけではない。  いやむしろ、そこらの大和連邦民より適応できる自信がある。 「そ、それは……」  景春は言葉に詰まる。  彼の視線は泳いでいた。 「何か隠し事がありそうだな……」 「だ、黙れ! そんなものはない!!」  景春が叫ぶ。  俺は見逃さなかった。  彼の視線が一瞬だけ俺の斜め後ろ……天守閣の障子に向いたことを。  そう言えば、そのあたりから小さな気配を感じていたな。  小鳥か鼠かと思ってスルーしていたが……。 「こっちか」 「なっ……!? ま、待て!!」 「待たない」  俺は景春の声を無視する。  そして、障子を蹴り破った。 「ほう……? これはこれは……」  俺はニヤリと笑う。  そこには、景春とよく似た幼女が2人、抱き合って怯えていたのだった。
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