1573話 甘ちゃん

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1573話 甘ちゃん

「桜花家伝来……【乱舞・千本桜】!!」 「「【二重桜花槍】!!」」 「ちぃっ! 調子に乗りやがって……!!」  景春と、その妹たち。  合わせて3人の血統妖術が俺を次々に襲う。 「俺には効かん……そう言っているだろうが!!」 「くく……。それはどうかな? 貴様の火妖術は見事だが、妖気には限りがあるはずだ。こちらからの攻撃を無力化する度に、貴様の妖力は減っていく……。その状態で余たち3人を相手にして、いつまで耐えられるか見ものだ」 「ちっ!」  景春の指摘は概ね合っている。  俺の『炎精纏装サラマンダー』はかなり強力な魔法だが、決して無敵ではない。  発動しているだけでMPを消費するし、攻撃を受ければその度に多少のMPを消費する。  火は桜に対して相性が良いため、本来は気にするほどのMP消費量ではないのだが……。  攻撃に全振りした3人がかりの攻撃を受け続ければ、さすがに厳しい。 「図に乗るなよ! 俺が全力を出せば、お前らなんか一瞬で消し炭だ!!」  俺は叫ぶ。  かなりイライラしていた。  しかし、桜花家の3人は動じない。 「やれるものなら、やってみたらどうだ?」 「わたしも覚悟は決めました……。もう、何も怖くありません!」 「ねぇさまと……桜花家のためなら! わたしの命を捧げます!」  3人が告げる。  その間にも、俺への集中攻撃は続く。 「ちっ!」  俺は闘気で身体能力を強化し、桜吹雪を避ける。  だが、なにせ手数が多い。  少なくない数の花びらが俺にヒットし、じわじわとMPを削ってくる。  本当に……人を苛つかせるのが上手い奴らだ。 「忠告はしたぞ……! そんなに死にたいのなら、勝手にしろ!!」  俺は叫ぶ。  もういい。  不殺もクソもない。  このガキどもを一人残らず殺す! 「くらえっ! 爆裂火炎――うぐっ!?」  俺は火魔法を発動しようとした。  だが、その直前で……俺の体が動かなくなる。 『タカシ……』 『タカシお兄ちゃん……』  まただ。  また、幻聴と幻視。  ボーイッシュな美少女と無垢なハーピィの少女が俺を見つめて……いや、責めるように睨んでいる。 「くっ……!!」 「ふははは! やはり、体が動かぬようだな!! こちらの勝ちだ!」 「悪く思わないでください」 「桜花は……渡しません!」  景春と双子。  3人の妖術が俺を襲う。  やはりダメだ。  強めの攻撃を仕掛けようとすると、体が動かなくなる。  記憶を失う前の俺――あるいは闇を受け入れる前の俺は、筋金入りの甘ちゃんだったらしい。  まるで呪いのように忌々しい。 「ちぃっ!」  俺は刀で妖術を受ける。  しかし、全ては防ぎきれない。  肉体にダメージはないが、MPが削られていく。 「ふふふ! いいぞ!」 「このままいけば勝てる……!」 「お願い、このまま……」  3人の攻撃は苛烈になっていく。  俺は、かなりのストレスを感じていた。  こいつら……。  半ば呪いのようなものとはいえ、幼子を傷つけないという俺のポリシーが無ければ、とっくに死んでいるんだぞ。  それにつけこんで、好き放題しやがって……。
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