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「被害はどうや?」
「衝撃の割には被害は少なめだな。航行設備は無理やりに方向を変えられたからか、酷いことになってるがな。」
セキが乗り物の中に入ると、ニワトリの被り物を被った科学者のような風貌の男が返事をする。こんな異質な風貌をしているが、セキの実の父親の琴葉真治である。その隣には、大人っぽい風格だが、背は少し低めの女性が立っている。
「そうみたいやな。」
セキがひとしきり船内を見回す。
船内はあの外観にしては広く、操舵室の他にキッチンとダイニング、人数分の寝室と共同のトイレが2つ、大浴場が男女分かれて設置されている。
「内部の修復はシンがやってくれている。俺とゆかりはシステムの方だな。」
「こういう機会にメンテナンスしておいたほうがいいですからね。」
二人は透明なキーボードを叩きながらホログラムのように空中に表示された画面を見ている。
「あかりは?」
「まだ寝てるんじゃないですかね。起きてきたところを見ていませんけど。」
「あの揺れでも起きないのはある意味天才だな。」
シンがクックックと愉快そうに笑う。
「ところで、どこか行くんだったら、あかりにも声かけておけよ。後でぐずられたらかなわないからな。」
セキが出ていこうとしたら、真治が口を開いた。さすがは父親といったところだろうか、セキは何も言っていないのに、そこまで察して声をかけていた。
「わかった。」
セキは居住区の方に歩いていく。
一番奥の左のトビラを開くと、ベッドの上ですやすやと眠る白髪の少女と、その脇に鎮座する球体の機械がコードに繋がっていた。機械の表面にある細い画面には充電中と表示されていた。
「あかり。」
セキがベッドの少しだけ空いているスペースに膝を乗せて、白髪の体を揺する。背の低いセキにはベッドの下から揺するのは億劫なのだろう。
すると、あかりの目が細く開く。
あかりはまさに寝起きといった感じに「ん〜?」と返事をする。
「少し留守にする。大人しく待っててくれな。ソラ、あかりを頼むで。」
「当たり前のことをいちいち言わなくていいんですよ?おまかせ下さい。」
球体の機械が流暢に答える。
それを言い終えると、あかりの返事も聞かずにセキは部屋を出る。そして、今出た部屋の向かい側の扉を開き、中に入る。
すると、ベッドの横の机に向かっていた茶髪の男性が椅子を回して振り向いた。
「なんだセキか。どうしたんだ?」
「少し留守にする。」
「そうか。気をつけて。」
「うん。」
会話が終わっても、セキは部屋を出ようとしなかった。その行動になにかを察したのか、茶髪の男が軽いため息をつきながらちょいちょいと手招きをした。
それに従うようにセキが男の側まで歩いていく。
側に到着すると、男がセキの頭を優しく撫でた。
「寂しいなら言えよな。」
「女はそういうのを口にするもんやない。」
「子供の癖に背伸びし過ぎだぞ。」
それから、しばらく無言の時間が続いた。
「コウ。行ってくる。」
「いってらっしゃい。」
最後にそれだけ言って、セキはその場を後にした。
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