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「ーーこっちよ」  先輩に連れられて、図書委員室に足を踏み入れる。  外が雨のせいか、元々日当たりが悪いのか、中は薄暗く、図書室以上に本特有の匂いが充満していた。  簡素な机が、本が窮屈そうに仕舞われた棚に囲まれるように鎮座されている。先輩が「好きに座って」と促すままに、僕は手近な椅子に腰掛けた。 「ああ、あったあった」  先輩は本が納められた棚から、一冊の本を引き抜いた。  黒い革張りの装丁、表面はツルツルとしていて、真ん中にはいかにもと言わんばかりの六芒星の魔方陣が描かれていた。  その上にはアルファベットの筆記体で【The GREED】と記載されていた。 「……グリード?」 「【欲望の魔導書】ーーそれがその本の名前よ」  先輩がそういってクスクスと笑った。 「その魔導書は【本物】ーーらしいわ」 「…………」  ゴクリ、とボクは喉を鳴らす。 「その本の持ち主の欲望を叶え、他者の欲望を引き出して暴走させる。その欲求は、果たされるまで消えることはない」 「ーー先輩」  ボクは、神妙な表情で先輩を見て、 「ーー今、そういうのは(中二病)は求めてないです」  ガッカリしながら本を突っ返した。  いくら僕がオタクだからといって、そんな胡散臭い話を簡単に信じられる訳がない。今さっきの朝倉姉妹の事もあって、余計にそう感じてしまった。  優しくしてくれた先輩に失礼な態度だったかもしれないが、これは、ない。 「まあ、そうよね。簡単には信じられないわよね」  そんな僕の態度を害した様子もなく、フフフと不適に笑う先輩。 「じゃあーー」 「え?」  そう先輩が言うのと同時にーー  ボクの中のーー何かが弾けた。 「ーーっ!?」  ドクン、と心臓の鼓動が早くなる。  息が荒くなって、机に手を付いて身体を支える。 「なーーにが……っ!?」  そうして、ボクの頭に浮かぶ思考ーーそして身体に起きる次なる異変。  ーー先輩を、抱きたい。  ボクはそれ以外考えられなくなり、下腹部に込み上げる熱いモノが起き上がる。 「あらあら」  すぅっ、とーー  先輩はボクの後ろから抱き付いてきた。 「随分と苦しそうね。どうしたのかしら?」  惚けた口調で先輩はボクの耳元で囁いた。 「せ、ぱい……離れ、ーーっ」  引き離そうとした言葉と共に、歯を食い縛りながら衝動に耐える。  マズイ……良くわからないけど直感的にそう思った。 「あら? まだ堪えるのね……すごいわ。普通ならもうとっくに【堕ちる】筈なのに」  「それともーーかしら?」と、先輩が何か続けるが、こちらはそれどころではない。  先輩の体温と息遣いが、ボクの劣情を掻き立てる。  背中に伝わる先輩の柔らかさに、甘い匂いに、ボクの理性はガリガリと音を立てて削られていく。 「ーーでも」  先輩が、ボクの下腹部に手を這わせる。
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