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「おはよー」 「うぃーっす」 「ねえねえ、昨日の番組見た?」  爽やかな朝の喧騒に包まれた教室では、リア充達がワイワイとHRまでの時間を過ごしていた。  ……そんな教室の入り口に、爽やかとは対照的に暗いふいんき(何故か変換できない)で過ごす、クッソ地味なオタク君が一人いた。  ーーまあ、ボクなんですがね?www  クラスメイトとは一言も会話せず、目も合わせずに、音も無く窓際最後尾の自分の席(日差しが眩しい)についた。  鞄を机に置いて、中から取り出したのは教科書ーーではなく昨日買ったラノベの最新刊を取り出す。  視界の隅っこで、クラスメイトの女子グループがそんな自分を見て嗤っているような気がしたが、無視する。(被害妄想乙w) 「おーっす、オタク君」  ーーそんなボクに話しかけてくる、奇特な女子が現れる。  ーー朝倉 茜(あさくら あかね)。  クラスカースト上位に位置する、派手じゃない方のギャル(意味不明)だ。  クラスでは見た目に反して優等生と評判の、赤みがかった茶髪の少女は、ボクの隣の席に座る。 「あ……お、おはよう、茜さん」 「あはは、まーた朝からドモってんねぇ?」  ボクのオタク特有(偏見)な女子に免疫無くてドモる(クソキモい)のを見て、何がおかしいのか笑って返す茜さん。  正直、苦手なんだよなぁ……茜さんがボクに構う理由も透けて見えるし…… 「おっ? その本はもしやーー」  茜さんが目敏くーーいや、あざとくボクの手にある本に狙いをつける。 「ーーさっすが、オタク君。もう新刊を持ってるなんてね」  そういって茜さんは両手をわきわきさせて、「貸せ」というオーラを滲ませてくる。 「いや、まだ読んでないんだけど……」 「えー……遅くない?」  口をへの字に曲げて文句を言ってくる茜さん。  確かにボクは読むのは遅いかもしれないが、茜さんにとやかく言われる筋合いはない。 「それじゃあ、いつ読み終わる?」 「えっと、今日の昼休みには……」 「オッケー、じゃあその後貸してね~」  まだ貸すとは言っていないのだが、彼女の中では当然のように貸すことが確定事項になったようだ。  ーーうん、まあ、これがカースト最下位のボクと茜さんの接点だ。  茜さんは事あるごとにこうやって話しかけてきては、ボクから何かを借りていく。  断ったら変な噂を流されるかもしれないから後が怖い。なので、ボクは言われるがままに貸している。  情けないなぁ、我ながら。 「お姉ちゃん、また彼に何か借りてるの?」  と、そこにもう一人、女子が現れる。  艶やかな青みがかった黒髪ポニーテールの朝倉 葵(あさくら あおい)さんだ。 「あー、葵おはよう。っていうか、お姉ちゃんを置いてくとか酷くない?」 「だって、いつまでも起きないんだもの。待ってられないよ」    茜さんの文句に、葵さんは馴れた様子で受け流す。  名字からも分かるとおり、二人は双子の姉妹である。普通別のクラスに分けられそうなものだが、何故か二人は同じクラスだった。 「ごめんね、いつもお姉ちゃんが催促して」 「え、……あ、いや、だいじょう、ぶ、です……」  茜さんの時よりも噛みながら、言葉を繋ぐ。 「ありがとうね」  それだけ言ってボクに笑いかけると、葵さんは女子グループに挨拶して会話に混ざっていった。 「…………」  なんとはなしに、その姿を自然に目で追ってしまう。  ーーと、葵さんと目があった。 「ーーーー」  ハニカミつつこちらに小さく手を振って来た。 「ーーーー」  自分の体温が上がるのを感じた。  ボクにはそれに適切な返しをすることが出来ず、慌てて目線を切ってしまう。  ーーその後、すぐに予鈴がなって担任が入ってくる。  生徒達は銘々自分の席に散っていく。  ーーいつもと変わらない日常だった。  ーーこの時は、まだ。
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