1人が本棚に入れています
本棚に追加
赤いイナズマ
「ねぇ、聞いたー?また出たんだってー」「えぇーホントぉ?」「ホントだって、小学の時の友達が見たって言ってたんだからっ」「ふーん、そうなんだー」「あーっ、信じてないな?」「信じてる信じてる。で、何て言ったっけ?」「えぇ、だからぁそれは…」
私は立花 未来、中学二年生。得意な教科は国語。腰まで伸ばした明るめの茶色の髪は真ん中あたりで髪留めで纏めてある。母親が"これが似合うから"と決めたので従っている。…そうすれば波風立たずに済むから。クラスの女子が休み時間で談笑しているのを横目に私は次の時限の教科書に目を通している。別に勉強したい訳じゃない…クラスの人に話かける勇気が無いから誰とも目を合わせなくて済む教科書の文に視線を集中する…ただそれだけだ。
チャイムが鳴った。授業が始まる。少し気が楽になる…何故なら休み時間中に"誰かに話かけられたらどうしよう"と不意に来られてもいいように周りに気を配っているからだ。
「はい、はじめるよ!」入るなり教室の薄い木の板がビリビリする位の元気のいい声を出したのは、この間から教育実習で国語を教える事になっている先生の卵だ。名前は木下 結城という。ポニーテールが特徴的な今どき珍しい"熱い"先生で「この物語っ、ホンっっトいいからドンドン教えていくよっ」と目をキラキラさせて言うくらい"こういうのが好きなんだな"と思わせてくる。
"私とはあまりにかけ離れた場所にいる先生だな"
私はただ、そう思った。
そんなある日、私は本屋に寄り道をして帰ろうと近道の出来る運動場横の道を歩いていただけなのに…
ドンっ!!
驚き過ぎて声が出ない…だって、目の前に人が落ちてきたんだから。だけど、その落ちてきた人はものすごい勢いで落ちてきた筈なのにすぐに立ち上がる。
「いったぁぁいじゃないの!」「あ」空に向かって文句を言う少し汚れた全身ピンクの女の子?の姿に私は思わず声が出てしまった。
「あ…」相手も同じ言葉を発した。…あれ?この声どこかで聞いたことあるような…。
「じゃ、じゃあここは危ないから逃げてね」「え、あっ」彼女は言い終わると跳躍する。それはただのジャンプじゃない、一気に空高く跳べるジャンプだった。私はただ呆然と彼女の跳んだ方向を見ることしか出来なかった。
「危ない危ない…教え子と目が合っちゃったよ」物凄い風切音の中で彼女は思わず呟く。そう、彼女は先生の卵、木下 結城、今は変身して"キュービックレッド"として化物と戦っている。
しかし、状況はかなりマズい。敵の攻撃に一方的にやられているのだ。
「…やっぱり、弱くなってる」
キュービックレッドは自身の力が以前より出ない事を実感する。
変身の力は"未来の可能性"の分だけ強くなるからだ。二十歳を過ぎた結城は未来がある程度固まってしまい、力が無くなってきているのだ。
普通ならその前に誰かに継いで引退するのだけど、結城はズルズルと今になっても引き継げずにいるのだ。
「だーかーら!サッサと次を見つけろって言ったのニャ」キュービックレッドの肩から顔を出したのは2等身サイズの手に乗りそうな白猫だった。この生き物の名前は…
「だってーネコニャン、私の後やるんならちゃんとした子にしたいしぃー」
「それで力が弱くなってピンチになってるんニャからどうしようもないニャ。もし負けでもしたら世界は闇に包まれてしまうニャ」
「わかってる…でも、これだけはちゃんとしておきたいの。今日の奴もキッチリ倒すから」
「はぁ…とにかく頼むニャ」
「よし、居た」さっきキュービックレッドを吹っ飛ばした怪物が見えてきた。それは木のようだった。いや、もっと正確に言えば丸太である。丸太を胴体に一本、腕、足それぞれ左右二本ずつ配置して人型になっている。顔の部分はジャックオーランタンみたいな形の空洞がある。
ったん
怪物の目の前に降り立ったキュービックレッドだが、いかんせん どう対処すればいいか迷う。既に一通り 技を繰り出したのだけど、あまり効いていない感じがしたからだ。
「じゃ、とりあえず。ファイナルっエクスプリエーション!!」
以前より威力が弱まった光の粒子が放たれる。しかし、奴に命中するがチリチリ多少焦げたくらいでまだまだ健在だ。
「もう、連発出来ないしどうしたらいいの?!」キュービックレッドがほとほと参っていると
「あれ?…これ、何…」
一人の少女が怪物のそばの建物の影から姿を現した。立花 未来だった。怪物が目の前にいて足が竦んでしまったのか、全く動くことが出来ないみたいだ。
「あの子、何でこっちに来たのよ!」「…そう言えば、さっき逃げろって言ったけど、ドコへって言ったニャ?」「……あ」「ドコヘ逃げればいいのか分からずに彷徨ってたんじゃないかニャ」「うっ…」
そう話している間に怪物が未来に気付いて近づいていく。
「あっ危ない!!」
「え?」
キュービックレッドは未来を抱えて飛ぶ。平らな所に着地して未来を下ろす。
「あ、ありがとうございます」「いいえ、私の方こそちゃんと進む方向を教えてなかったから。ごめんなさい!」「いや、私もぼーっとしてたから…あなたの声、どこかで聞いたことある気がして、どこで聞いたのか考えてたら…」
「な、な、な…そんなことないって!私の声ありきたりだからっ」「そうですか?」「そうそう!」
「う〜ん…」未来はなんだか納得いかない表情ではあったが
いつの間にか怪物が未来の目の前、向かい合っているキュービックレッドの後ろに現れた。
「危ない!」未来が叫ぶが、キュービックレッドが振り向いた瞬間に怪物の拳がキュービックレッドをテナント募集中のビルへ殴り飛ばす。
「そんな…待って!」未来がキュービックレッドの飛んで行ったあとを追って建物に入っていく。
最初のコメントを投稿しよう!