青い焔

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青い焔

私は一部が瓦礫になっている建物の中を進む。それは彼女の飛ばされた跡だから真っ直ぐ行けば会えるはず。 …何でこんなことをしているのか私にも分からない。でも、もしかしたら知ってる人かもしれない…そう思うと"私が何もしないで二度と顔を見る事が出来なくなるのは絶対後悔する!"…多分、そういう気持ちが今の私を動かしているのだと思う。「ん?」先の方に人影っぽいのが見えた。 「あっ、大丈夫で…」私は言葉を最後まで紡げなかった。だって、そこにいたのは… 「先生っ!!」 そう、瓦礫の一番奥で変身の解けた木下先生が倒れていたのだ。未来は駆け寄って「先生っ!大丈夫ですか?!」と叫ぶ。 「うっ…ハハッ、バレちゃったよね…」力なく言い、しんどそうに身体を起こす木下先生。 「参ったね、こりゃ…」この状態で苦笑いしか出来ないみたい。 「なんで先生がこんな事を…」「うん、まぁ。簡単に言えば成り行きだね」「成り行き?」「そう、私が立花さんくらいの時に、このネコを見つけちゃったからしょうがないのよ」「誰が猫ニャっ」「わっ、喋った」先生の手に乗っている白いぬいぐるみみたいなものがちゃんと口を動かして身振り手振りで抗議の意思を示していた。私はここが現実でない異世界へ迷い込んでしまったような気がしてしまう。 「れっきとした”ねこにゃん”って名前があるニャ」「えっ、猫じゃん」思わず言ってしまった。見た目といい、名前といい、猫以外の何者でもない感じなんだけど。…でも、私の言い方どうにか出来なかったのかな。気分悪くさせちゃったりしていないかな…。 「やっぱり!!立花さんもそう思うよねっ」「え?」目をキラキラさせて私に縋るように近付く木下先生。 「この子ったらどう考えても猫なのに、絶対認めないんだよねぇ」「だから猫じゃないニャ!」 「プッ…ハハハッ」私は笑ってしまった。だって、"猫じゃない"って言ってるのにその後"ニャ"だもん。 「…立花さんってクラスで喋ってる印象無いけどこんなに笑えるんだね」「あ…」私、イメージと違う事しちゃった?変に思われてる? 「今度は学校でも見てみたいな」「え…」「立花さんの楽しく喋ってるとこ、皆にも知ってもらいたい」「でも…」怖い 「大丈夫、受け入れてくれる人は必ずいるよ…私みたいに」「…」 ピシッ、ピシッ 天井にヒビが入り亀裂が大きくなり… ドガーンっ! 私達の10メートル先の天井が崩れ落ち、怪物が再び現れた。 「くっ、来たか」先生は立ち上が「ぃた…」 立ち上がろうとしたけど足を挫いたみたいで片足がつま先をちょこっと付けた状態で立っている。 駄目だ… 怪物が腕と思われる丸太を突き出した。パンチだ。 「…っ」私は自然と先生の前に立ちはだかった。 「ダメぇぇーーー!!」先生の絶叫が後ろから聞こえる。でも、私は先生を失う方が怖い。私のことを受け入れてくれたのにいなくなるのは嫌っ。 怪物のパンチが迫ってくる。丸太の直径は私の背丈を以上だ。 …アレに当たったら私の形が…無くなるだろうな……それでもっ 先生を護りたいっ!! ポワ 私の身体の中心が光り出した。何…これ。怪物は攻撃するのを止めて怯んでいる。 「…やっと見つけた」「え?」声に振り返ると木下先生が私を見ていた。 「立花さん、この世界を護ってくれないかしら」「わ、私が?!」「そう」「どうやって」 先生は手を差し出した。その手には鍵のようなものが載っている。…これを使うの? 「これで変身して奴を倒すの」「で、でも」「私は立花さんに決めたのっ、あなたならやってくれるって信じてるから」「…」「大丈夫、責任は私が取るから」「何で…私なんかに…」 「ずっと探していたの、私の後を継いでくれる人を。さっき、私を庇おうと絶対に敵わないのに前に立った時、立花さんの気持ちが私の心に届いたの”護りたい”って…だから」 「だから、私は立花さん…立花 未来さんにお願いしたいの」 私は反射的に先生の手にある鍵を取った。 まだ…まだ一週間しか彼女は、教育実習で先生として過ごしていない。なのに私のような目立たない生徒の名前を覚えてくれているなんて…この先生の卵に私が出来ることは…他に思いつかないっ。 「プリズムパワーっ!スタイルチェンジ!」言葉が勝手に出た。そして、私の身に着けていたものの感覚が無くなり、新たに私ピッタリの服…ブルーのミニスカートのドレスに白のブーツ、手首にブレスレットが付いて耳には小指くらいの大きさの水晶が付いた。髪もいつの間にか青色になり纏められる。そして胸に大きなリボンが付いて変身が完了した。 「闇を切り裂く希望の光、ブルースフィア!!」 「う、うわ…何これ?」私が今まで一度も着たことがないような服を一瞬で身に着けてしまったのだ。戸惑わないわけがない。 「うん、似合ってるよ」「あ、ありがとうございます」思わずお礼を言ってしまった。 「私はサポートしか出来なくなったけど、絶対に奴らに負けないと確信してるから…じゃ、来るよ!」「あっ」私は、さっき怪物の居た所を見ると再び現れてこっちに突進して来るのが分かった。私は怪物に向かって走る。速い速い。景色がドンドン後ろへ流れていく。怪物の目の前に着くと怪物も私を見つけたみたいでパンチを繰り出してきた。 「う、く…」腕をクロスさせて受け止める。少し腕がジーンと痺れるけど、受け止められなくはない。…いけるっ! 「はぁーーーーっ!!」怪物の腕を掴み、振り回して投げる。 ドゴーーン 飛ばされた怪物は壁に叩き付けられて壁が崩れる。私は追撃の為に崩れた壁でもうもうと立ち上る煙に向かって歩く。 「っ!!駄目!」「え?」先生が突然叫んだが、私は油断していた。 ドゴォ 私の身体はさっきの怪物と逆方向に飛ばされ反対側の壁に背中から激突する。 う、痛い… やだ やっぱり、私なんかが戦うなんて……でも、私が諦めたら誰がこいつを倒せるの? ゾクッ 怖い想像してしまった。誰も対抗出来ずに怪物になすすべなく蹂躙される世界。それを私が負けるだけで実現してしまうことに… 「ブルースフィアっ!!」 ふと、視線をスライドすると誰かが走ってくるのが見えた。当たり前だけど木下先生だ。私の名前を呼んで必死に走ってる。私はその姿を見て一つ疑問を覚えた。 (…これ、痛いし大変だし…先生はどう思ってやってたんだろう……どうしても聞きたい!!) 私は生まれて初めて他人の気持ちを知りたくなった。 私の足に力が入る。起き上がり先生を見ると怪物が背後から迫ってきた。っ!ダメぇ!! 「たぁぁぁーーー!!」地面を蹴って一気に加速する。そして怪物の手前でクルっと回って回し蹴りを食らわす。 ドーーン… 怪物が倒れる。 「今よっ、ネコニャンお願い!」「わかったニャ」先生に言われたネコニャンは先生の肩から私の方へ飛んできて私の肩に掴まる。 「…うーん、やっぱり変わると落ち着かないニャ」「そんなことどうでもいいから!」「はいはい、わかってるニャ。ブルースフィア」「あ、はい」「オレっちの額に触るニャ」そう言うネコニャンの額には何かの模様があることに気づいた。 「は、はい」そこに指を当てた、するとネコニャンが眩い光を放つ。 「わっ」思わず私は目を瞑る。しばらくして光が収まるとネコニャンが… 弓の形になっていた。 「さぁ、弓を引くニャ」「え…あ、はい」(矢がないのに弓を引くの?)と思ったが、もう不思議なことがいくつも起こっているので慣れてき始めた私はとりあえず言われた通りに弓を引く。 「ブルークリスタルアロー、セット!」またもや自動的に私の口から言葉が紡がれる。その言葉に合わせてネコニャンの弓に青い矢が現れる。倒れて もがいている怪物に狙いを定め… 「サンダーッ、シュート!!」指を離す。私の髪や服が後ろへはためく程のもの凄い暴風を伴いながら矢が怪物を貫く。 「うおぉぉぉ…」怪物は叫び声を残して消えていった。 やった…勝った。 「先生っ、どうでした…か?」私が振り返ると、先生は倒れていた。え… 「先生!先生!大丈夫ですかっ」先生の側に飛んでいく。着くと同時に変身も解けた。ヤダヤダ!先生には色々聞きたい事があるのにっ! 「先生っ先生ぃぃ」「落ち着くニャ」「え?」「ユウキは寝ているだけニャ」私の肩に乗っているネコニャンにそう言われてよく見ると確かに息をしていた。 「ユウキは疲れているニャ」 「…ずっと頑張ってきたんですよね」 「そうニャ、頑張ってやってきて今日やっと、キミを見つける事が出来たニャ」「そうなんですか…」私は先生にどんなプレッシャーがあったのか全部は分からないけど、もの凄い重圧だったって事は分かった。人知れず、それを私が小さい頃から続けてきた先生は…やっぱり凄い。 「…頑張ってくれてたんですね」 安心しきった寝顔を見せる先生の頬をそっと触る。少し汚れてしまっているがちゃんと先生を護れた事を私は誇らしく思った。 「ねぇねぇ、また出たんだって」「何が?」「この間の使ってないビルが崩れたっていうのあったじゃない?」「あぁ、あったわねそんなこと」「その崩れた理由って誰かが戦ったからみたいなんだって」「え、ガスで爆発したんじゃないの?」「そう言われているけど、それだと説明つかないことがあるらしいの」「へぇーどんな」「なんか、爆発の場所が離れたところにあったり、物凄い大きなものでぶつけた跡みたいのがあったって」「ふーん」「だから、絶対そうだよねっ」 「光の戦士、キュービックレッド」 扉の前で深呼吸する。慣れないことに緊張するのは当たり前。自分を一気に変えることは難しい。それでも少しずつ、少しずつ私に出来ることを増やせれば今までとは違う景色に出会えるかもしれない…。 「…よし」 私は教室のドアを開いた。 「おはよっ」
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