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【1】
雷鳴が轟き、暗い夜空を裂いた稲妻が古い洋館を浮かび上がらせた。
激しい雨に打たれながら、野地大輔は石の門に打ち付けられた青銅の板に目を凝らした。
――『本天堂マンション』。
ここで間違いないようだ。
黒い蔦に覆われた石壁は苔むし、鉄格子の嵌った窓に明かりはなかった。石のアプローチの先に玄関灯が一つ、闇の中で弱々しく光っていた。再び雷鳴が鳴り響き、チカチカと瞬いたそれもすっと消えてあたりは闇に包まれた。
ごくりと喉が鳴った。
家賃の安さに魅かれて即決してしまったが、その安さにもかかわらず三月末のこの時期まで残っている物件のヤバさに、今さらながら思いを馳せる。
だが、大学の入学式は明日に迫っている。家具付き食事つきで契約したので、手持ちの生活道具は歯ブラシと電気カミソリとタオルと着替えのみだ。どこかに泊まる金もない。
諦めて真鍮のノッカーに手を伸ばしかけた時、音もなく中から扉が開いた。暗い室内を背にして、痩せた青年がにっと笑った。
「本天堂マンションへ、ようこそ」
怖い。
歯をガチガチ鳴らして後ずさる大輔の手をガシッと掴み、青年は無理やり扉の中に大輔を引き入れた。ひっと喉から悲鳴を上げかけた時、部屋の明かりがパッと点った。
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