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「どうしたの?」
田吾作さんはなにかをじっと見ている。
わたしを通り越したその先。
恐る恐るその視線をたどると、前方に大きな穴のようなものがあることに気付いた。
「穴?」
田吾作さんが手にしていた松明で穴を照らす。
最悪なことにその穴は人が飛び越えることができないくらいに大きく、また、底が見えなかった。
「ひっ!」
慌てて田吾作さんの首にしがみ付く。
田吾作さんは動じることなく、じっと穴の中の暗闇を見つめていた。
後ろから関節球のこすれる音が近づいてくる。
停止していたマネキンが再び動き始めたんだと思うと、一層不安を煽った。
パニックにならないように、息を吸ったり吐いたりしていると、田吾作さんが興味深そうにわたしを見ていることに気が付いた。
まるで生まれて初めて動物園に行った子どものような好奇の目。
妙に居心地が悪い。
「……なに?」
不快感を露わに尋ねると、田吾作さんは首を左右にぶんぶんと振った。
「なんでもないわよ。気にしないで続けて?」
口ではそう言いつつも、面白い物を見るかのような目は変わらない。
多分、ううん、間違いなくこの人ちょっと変だ。
気合の入った赤い髪と、少々ロックな黒い服。
整った顔は正直好みだけど、できれば関わりを持ちたいタイプの人じゃない。
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