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数秒後、体に感じるであろう痛みに恐れ戦きながら。
しかし……
わたしが感じたのは重力によるずしっとした自分自身の重みと、僅かな服のすれだけ。
痛みなんてどこにもない。
落下感すらも。
間違いなく落ちた、その感覚はあるのに。
「そろそろ手、離してくれない? 首が痛いわ」
田吾作さんの声に促され、そっと瞼を開く。
目の前にあるのはあくまで冷静な、田吾作さんの横顔。
真っ暗な穴の中に落ちたはずなのに?
ここで初めて自分の状況を確認した。
ごつごつの岩肌に囲まれた洞窟らしき場所に、一定の間隔で松明が燃やされている。
そのおかげで自分たちの今の状況がよく見えた。
田吾作さんは大きなマットの上に座っていて、更にわたしはそんな田吾作さんの膝の上に乗っているという姿を。
そして、わたし達を見つめる多数の人々の目があること。
「ご、ごめんっ」
田吾作さんの膝の上から慌てて飛び退こうとしたわたしは、そのままの勢いで後ろ向きに転倒してしまった。
「冴女?」
心配そうにのぞき込むヘーゼルの瞳。
そのすぐ隣に、黒く濡れた瞳が並んだ。
「大丈夫ですか?」
瞼を縁取る濃い睫毛。すっと通った鼻筋に、薄紅色の唇。
白く澄んだ肌にかかる黒髪は、絹糸のように滑らかで、透明感がある女性って、こういう人の事をいうんだろうな、と思った。
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