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ショートカットの女性は、下からのぞき込むようにわたしの顔を睨みつけた。
「あんた……名前は?」
一瞬、とことん逆らってやろうかと考える。
でも、それも馬鹿らしい。
わたしは煙草がある場所まで移動し、それを踏みつけた。
その吸殻を手に持ち、ショートの女性の顔の前に突き出す。
「冴女。木村冴女よ。自分のごみは自分で持ち帰る、これ、幼稚園児でも習うような基本でしょ? 智美さん」
名前を呼ばれたショートの女性、智美の顔から、表情が消えた。
でもすぐにふっと鼻で笑い飛ばす。
「最近の女子高生って意外とちゃんとしてるじゃない。それ、捨てたってことは私は所有権を放棄したって事なの。拾った貴方のものよ、冴女ちゃん」
何を言ってるんだ、この女は。
話が通じない。
煙草の吸殻を持ったまま固まるわたしから顔を背けた智美は、再び煙草を取り出し火をつけた。
再び文句を言おうと口を開いたわたしの手に、OL風の女性の手が重なる。
「もういいのよ。私のせいでごめんなさい」
「いや、あなたのせいじゃ……」
OL風の女性がスカートのポケットからハンカチを取り出し、わたしが手にしていた吸殻を包み取った。
「ありがとう、冴女……ちゃん?」
女性の柔らかな笑み。
不快な感情が一気に吹き飛ぶような、そんな爽やかな笑顔だった。
「あの……ここってどこなんですか? あなた達は一体……」
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