開始を告げる銀

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「……なに? たごっち」  なんとなく面白くなくて、冷たい口調になってしまった。  田吾作さんは首をわずかに傾げる。 「大丈夫よ。持てたから、あたし」 「え?」  違う意味の返事が返ってきた事に、レミたんの表情が変わる。  さっきまで底抜けに明るいギャルって感じだったのに、ドン引きしているのがわかって、思わず吹き出しそうになった。  レミたんはさっと田吾作さんから離れると、わたしの耳元に顔を寄せる。 「どういう人なの? たごっちって」  田吾作さんは自分が言った言葉が、レミたんと食い違ってる事に気付いていないのだろう。  美知佳さんがフォローするように田吾作さんに話しかけているのが、視界の端に入った。  わたしは細めの眉を眉間に寄せるレミたんに、笑顔を返す。 「わたしの事がモテた人、かな」  込めた皮肉に気づいたレミたんが、くるくるに巻かれた髪をくしゃっと掻いた。  そして、赤くぽてっとした肉厚の唇を尖らせる。 「先に言っておくけど、先生はレミのだかんね?」   今まで聞いたことがないような低い声で、念押しするように言った。 「先生?」  一体誰の事を言っているのかわからない。  困惑していると、一番後ろを歩いていた田辺さんが、 「これから行こうとしている先に、最後の参加者がいるんですよ」 と教えてくれた。 「別の場所にもう一人?」  口に出して気付いた。  ゲームの参加者は全部で十一人。  ここにいるのはわたしを入れて六人で、マットレスがある場所にいるのは四人。  そう、あと一人いるはずなんだ。   「先生なの? その人」    教師かなんかなのかな、と思って聞いたのだが、レミたんはバサバサとしたまつ毛が印象的な瞳を弓型にしならせ、嬉しそうに食いついてきた。 「すっごいイケメンなの! あ、レミ的にはたごっちの方が好みだけど、たごっちは……なんか不思議ちゃんだし、レミには荷が重いから」    美知佳さんと何か話していた田吾作さんは、急に自分の名前が出たことに目を大きく見開く。  レミたんはそんな田吾作さんの顔を惜しむように見た後、すぐにハイテンションに戻った。
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