開始を告げる銀

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 わたしは先にドアを開け、外に出た。  背後で男性が手洗いをする音が聞こえる。  みんながなにをしているのか見ると、テーブルとソファーがあった場所に集まっていた。  マットレスがあった場所にいた、金髪男や悠仁さん、智美や三輪さんも移動してきている。  レミたんがわたしに気づき、 「冴女っち! こっちねー!」 と、手を振っていたが、わたしの後ろから出てきた男性を見て固まった。 「え? 二人で……トイレから?」  わたしは背後を振り返り、男性と顔を見合わせる。  そして首を思いっきり横に振った。 「た、たまたま一緒になっちゃったみたいで!」  言い訳がましくなったが、別に後ろめたいことはなにもない。  それに、一緒にトイレに行ったって勘違い、ものすごく嫌だ。  レミたんが先生という人物を気に入っていると聞いていたし、変な勘違いをされたくなかったのだが、焦るわたしの姿を見て、レミたんは面白そうに吹き出した。 「やだ、冴女っち! そんなに必死にならなくてもぉ、レミ、なんとも思ってないよぉ~~」  いやいや、さっき目がマジだったから。  皆がいる場所へ移動したわたしと男性は、お互いに簡単な自己紹介を済ませる。  男性の名前は志摩行斗(しまゆくと)さん。  本当に学習塾の先生をしていて、塾で採点をしている時に意識を消失。  気づいたらここにいた、という、流れは皆と同じみたいだ。  わたしは美知佳さんの隣に、志摩さんはその向かいに座る。  志摩さんの隣には、レミたんがぴったりと寄り添った。  イケメンな類だと思うのに、女性慣れしていないのか、志摩さんの表情はとても強張っている。  お構いなしにぐいぐいいくレミたんは、ある意味すごいかもしれない。  落ち着きのない様子の志摩さんだったが、一人掛けの椅子に足を組んで座っていた智美から「先生」と声をかけられ、弾かれたように顔を上げた。 「で? なにかわかったの?」  志摩さんは深く頷き、自分の棟ポケットから端末を取り出す。  画面を操作し、テーブルの中央に置いた。 「これを見てください」  皆一斉に志摩さんの端末画面を覗き込む。  そこには真っ白な画面の中央に、全身ピンクのかわいらしいウサギのキャラクターが表示されていた。  某国民的人気猫キャラのような愛らしいもので、耳には白い花飾りをつけている。 「これは?」  問いかける田辺さんに、志摩さんは、 「端末の右上をダブルタップした時に出てきました。さらにこのウサギをタップします」 といいながら、ウサギのキャラクターに指を合わせた。  すると端末からとても軽快な音楽が流れ、ウサギがダンスを始める。 「……え?」  これだけ?  拍子抜けしたわたしの口から、声が漏れた。  
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