開始を告げる銀

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「見ていてください」  志摩さんの表情が強張る。  どれくらいウサギのダンスを見ていただろう。  口元だけがにっこり笑顔のウサギが飛び跳ねるダンスは、現状にはとても不釣り合いで。 「馬鹿馬鹿しいっ!」  三輪さんが毒づき、一人掛けの椅子にどかっと座り込むと、「水っ!」と言った。  誰に言ってるんだか。  冷ややかな目で見ていると、美知佳さんが空気を読み、三輪さんにミネラルウォーターを手渡す。  それを受け取った三輪さんは、礼も言わず、キャップを捻って飲み始めた。 「ちょっ……」  横暴な態度を非難しようと立ち上がりかけたわたしを、美知佳さんが笑顔で制止する。  なんでもない事のようなその姿に、大人の女性なんだなって思った。  ウサギが踊り始めて五分は過ぎただろうか。  突然音楽が止まった。  目を向けた端末の中で、ウサギがぺこっと頭を下げる。 『皆さん、こんにちは!』  ウサギのダンスに飽きていた全員の注目が、再び端末に集まった。  とてもかわいらしいウサギの声。  顔を上げたウサギの背景にARCANUMという黒文字がバーンと表示される。 『ボクはポリッシュのアルです! ネザーランドドワーフとよく間違えられるけど、ボクのほうが耳が短いんだよ! 皆さんのナビをしていくので、よろしくね!』  アルと名乗ったウサギは、かわいらしく身を捩り、耳をぴくぴくッと動かした。 「なんだ? こりゃ」  金髪男が呆気にとられた顔で志摩さんを見る。  志摩さんは神妙な顔で、端末を指さした。 「これからです。よく見ていてください」 『ボクを見つけだしたってことは、参加者が全員揃ったってことなのかな? このゲームは様々な条件をクリアすることで、進めていくことができるんだ! みんな協力して進めていってね!』  そう言ったアルの周りに、デフォルメされた動物達が十匹、駆け寄る。  犬、猫、クマ、ニワトリ、タヌキ、キツネ、オオカミ、ネズミ、牛、羊の十匹だ。  動物たちはアルを中心に手をつなぎ、楽しそうに横に揺れている。 『アルカヌムのルールを説明するね! ゲームはとっても簡単! みーんな一緒に協力して、ダイスゲームをするんだよ!』 「協力?」  智美が不快そうに眉を吊り上げる。 『あれれ~~? なんだか不満に思ってる人もいるのかな? ダメダメ! みんな仲良くしないと、こわーい罰ゲームもあるんだから!』  アルがそういうと、笑顔の動物達の中で、唯一笑っていなかったネズミの背後に、白いマネキンのようなキャラクターが浮かび上がる。
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