開始を告げる銀

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 それを見た時、心臓がドクンって鼓動した気がした。  美知佳さんの隣にいる田吾作さんに目を向けると、田吾作さんはぼーっとした顔で端末を見ている。  わたしは美知佳さんの背中越しに、田吾作さんの肩をつんっと引っ張った。  振り向いた田吾作さんに小声で話しかける。 「ね、これってさ、わたしと田吾作さんを追いかけてきたあれに似てない?」  田吾作さんは少し間を置いた後、目を大きく開いた。  思い出したらしい。 「似てるわね」 「だよね。やっぱ、あれも関係あったんだ」  ナイフを持って追いかけてきたマネキン。  人を模したものが無表情で追いかけてくる様は、今思い出してもぞっとする。  わたしと田吾作さんをあの穴に誘導する為に仕掛けたものだったとしても、他のメンバーみたいにこのゲームを好意的に受け入れることはできなかった。  わたしがもやもやとした気持ちを膨らませていると、 「きゃあっ」 「ええっ!?」 美知佳さんとレミたんの悲鳴が上がり、慌てて端末に目を戻す。  するとそこには、マネキンに首を絞められて、目を×の字にしたネズミの姿があった。 『くれぐれも、みんな仲良く、楽しくプレイしていこうね! アルとの約束だよ!』    テンションの高いアルの言葉が終わると、再び最初に流れていた音楽が流れ始めた。  目を×の字にしたままのネズミ、そしてマネキンが軽快なステップでダンスを踊り、他の動物たちがそれを取り囲む。  そのまま全員で大きな輪をつくったところで音楽が止まり、画面が真っ白になるとSTARTという黒文字が浮かび上がった。  動画の再生が終わったらしい。   「このまま画面に触れてもなんの変化もありませんでした。時間がたつとまた、基本の画面に戻ります」  志摩さんはそういうと、周囲を見回した。  皆、困惑した顔をしている。 「これって、なんの説明にもなってないような……」  悠仁さんがつぶやくようにいうと、志摩さんも苦笑した。 「全員この動画を再生すると、また動きがあるんじゃないかと思うんですが」  やってみないとわからない、って感じか。  それぞれ端末を取り出す。  確かに説明っていう説明じゃなかった。  全員の協力が必要だって言ってたけど。  勝者は願いがなんでも叶うってレミたんは言ってたけど、どうやって勝敗つけるの?  みんな同じように思っていたのか、どう反応していいのかわからない様子だった。  それでもゲームを始めるため、この場にそぐわないピンクのウサギの動画があちこちで再生されていく。  そして全員の画面にSTARTの文字が浮かびあがった時、文字が赤く変化した。 「……皆さん、用意はいいですか?」  志摩さんが周囲を見回す。  この時、浮かべていたそれぞれの表情を、よく見ておけば良かったと、後々思った。  自分の事にいっぱいで、忘れていたから。  ここに集まったのは、様々な欲望、野望を抱いている人達だって。  全員の手がSTARTの文字に触れた瞬間。  始まってしまった。  運命のダイスゲームが。
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