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「え?」
最後、なんて言ったかわからなくて聞き返すと、美知佳さんはそれに気づかなかったのか、「山田さん」と言って、田吾作さんに駆け寄っていってしまった。
振り向いた田吾作さんと楽しそうに話している姿は、まるで恋人同士のよう。
こんな状況で、なにしてんだか。
再びモヤモヤっとした嫌な気分になってきたので二人から目を逸らすと、悠仁さんと目が合った。
「……なに?」
尋ねるも、悠仁さんはさっと顔を背けて、コースの方へ早足で移動していく。
「なんなのよ。もう」
ぶつける場所がない苛立ちを感じた。
一人でもやっとしたり、いらっとしている間に、みんなコースの方に移動していく。
「冴女?」
美知佳さんとコース前にいた田吾作さんから、名前を呼ばれた。
田吾作さんは美知佳さんから離れ、わたしの側に来ると、
「いきましょう?」
と言って、自分の右手を差し出す。
その手に自分の手を重ねると、田吾作さんはきゅっと握った。
恋人同士のような甘いものではなく、母親が子供の手を引くような感じだったんだけど、モヤモヤとしていたものが晴れていく。
「田吾作さん。頑張ろうね」
小さな声でぼそっと言っただけだったんだけど、田吾作さんはこくんと頷いた。
「ええ。そうね」
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