地底遊戯

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「あたしもここがどこかは知らないわ。目覚めた時、あの人がいなかった。だからあたしは捜してる。それだけよ」  捜してる……人。  田吾作さんの表情はいつもと変わらない。  でも、目がとても寂しそうだった。  口ぶりから、その人は田吾作さんの恋人なのかもしれない。  古風な名前と真逆の外見から察するに、田吾作さんって本当は日本人じゃないのかも。  だから言葉でのコミュニケーションがうまくとれなのかもしれない、となんとなく納得した。 「目が覚めた時って、その前は一緒にいたの?」 「ええ」  ああ、わかった。  やっぱり田吾作さんもわたしと同じなんだ。  恋人と一緒にいた時に、ここに連れてこられたんだろう。  でも目覚めた時にいなかった。だから…… 「早く見つかるといいね。きつく言ってごめん」  言いたくないこともあるんだろうな、そう察して追及するのをやめる。  田吾作さんはわたしの顔をまじまじと見つめた後、ふっと力の抜けたような表情になった。 「いい子ね、冴女」  いい子って……  頬が一瞬で熱くなる。 「子供扱いしないでよ」 「そんな事してないわよ」    不思議な人。  でも、きっと悪い人じゃない。  そんなことを感じながら、繋いだままの手をきゅっと握りしめた。  
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