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それは段々大きくなっていく。
同時に暗闇に浮かぶマネキンの姿もはっきりしてきた。
頭髪も表情もない凹凸のみで人間を模された。マネキン人形。
それが一歩一歩こちらに向かってきている。
口から、想像以上に大きな悲鳴が漏れた。
無意識なのに自分で自分の耳を塞ぐ程の大きな悲鳴が。
でも悲鳴なんかでそれの動きを止めることはできるわけもなく。
座り込んだまま叫び続けるわたしの目に、マネキンが手にしているものが移る。
錆色の鋭いナイフ。
なんでマネキンが!?
なんでナイフなんか!?
なんで、なんで、なんで。
完全にパニック。
そんなわたしの体を、田吾作さんがひょいっと肩に担ぎあげた。
腰に回された細く長い腕。
「逃げるわよ」
そういうと、田吾作さんはわたしの体を小脇に抱えていることを苦にした様子もなく、ものすごい速さで走り始める。
激しい揺れの中、必死に顔を前に向けると、田吾作さんは空いた左手に松明を持っていた。
小さなその火は、今にも消えてしまいそう。
「お、下ろしてっ」
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