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「お、爽やか王子、珍しいなこんな時間に」 ちょうど外回りから帰って来たのか、同期の営業がオフィスに入ってきた。 オレの顔を見るなり、嫌な呼び方しやがって・・・。 「なんだよ、その呼び方」 「お前の影での呼び名だ。知らなかったのか?」 ・・・知らなかった。 入社して十年経つが、一体いつからそんな呼び名が・・・。 大体、オレにあるならこいつにだって別の呼び名がありそうだが・・・。 顔良し、仕事良しの営業のトップなんだから。 「お前にはないのか?」 そいつは器用に片眉を上げて『知らん』だと。ま、影での呼び方は往々にして本人の前では呼ばないからな。 オレも今まで知らなかった訳だし、そんなものか。 でも、オレが『王子』ならこいつは『暴君』か? この男は時に、周りをねじふせて自分を押し通す。こんなのがなぜ営業トップなのかと疑問に思うが、そこは彼の手腕なのだろう。 そんなことを考えていたら、突然変なことを言い出した。 「ところで、お前のとこのアシをくれ」 急になんだ?やるわけないだろ。 「お前のとこにもいるだろ?」 営業にはみんなついてる。特にトップのアシスタントが優秀でないはずがない。 「あの真面目メガネ・・・そっちのワンコと交換しろ」 ワンコ、て・・・。 「・・・なんだよ、いきなり」 何を言い出すんだ。 「見ててもつまらないんだよ。どうせ連れて歩くなら見てて楽しい方がいいだろ」 確かにこいつのアシスタントは真面目を絵に書いたような男だ。 でもそうなったのは、こいつが昔、アシスタントに手を出したからではないか。 元々性欲が強い割に特定の恋人を作らなかったこいつは、複数のセフレを持っている。週末は必ず彼女たちと楽しんで、再び始まる一週間に備えていたのだ。 しかし、そんな事情を知らない当時のアシスタントが、こいつに迫り、またあっさり抱いてしまったことで一悶着あった。要するに、恋人になったつもりが実はセフレであり、しかも、複数いるうちの一人だったという事を知ったのだ。その時の彼女と言ったら・・・泣くは喚くは暴れるはで、当時は大変な騒ぎになった。 それ以来、こいつに付くアシスタントは何も問題が起きない、真面目な男になったのだ。 「見てて楽しい・・・て、お前の好みじゃないだろ?それに、いくらかわいくても男だぞ」 そう、こいつの好みは綺麗なお姉さんタイプだ。あの子はかわいい子犬系だから全くタイプが違う。それにこいつはノンケだ。 「確かに以前、もろオレ好みの顔の男に誘われて乗ってみたことがあるが、ムリだったな」 ・・・乗ってみんなよ。 「男の方が持久力あるし、そっちの方がイイ(・・)らしいからな。でも、相手の勃ち上がったものを見た時、一気に萎えた。それ以来女しかやってない」 「・・・女に不自由してないんだから、わざわざ男に手を出す必要は無いだろ」 それもうちのアシスタントなんて、以ての外だ。 「そうだが、取ってみたくないか?あの仮面」 そう言ってニヤリと笑う。 さすがは営業トップ。あの子の猫の皮に気づいてたか。 「あの子の素顔を見てみたい。本当はどんな顔して泣くんだろう。見たくないか?あのかわいい顔がどんな風に歪んで涙を流すのか」 そう言って、口の端を上げたこいつの顔が少し怖い。 それって、泣かせたいて事だろ? 「・・・うちのアシには手を出すなよ。ましてや泣かすのはダメだ」 男に手を出すとは思えないけど、なんか引っかかる。 「結構かわいがってるんだから、絶対に手を出すな」 オレはもう一度釘を指した。
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