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1.課せられた義務
「天使の仕事って楽しいの?」
9万とんで5人目の魂に尋ねられ、僕は思わず首を捻った。
小一時間前、交通事故に遭った女子高生をリストに従って迎えに行き、たった今天界の入口へ着いたところだ。
「私みたいに死んだ人を迎えに行くのが仕事なんでしょ? そんなのダルくない?」
「別にダルくないよ」
僕は人間の姿から、丸い光の球へ変わる彼女を見つめ、「それに」と言葉をついだ。
「9万9千1の魂を送るのが俺の仕事だから」
「きゅ、9万9千……1??」
もはやまん丸の魂になった女子高生だが、僕の言い草に呆気にとられているのが分かった。
「随分と中途半端な数字だね?」
そう言って彼女は、クスクスと笑う。
「神様が決めた事だ。中途半端でもなんでもやり遂げるよ」
言いながら僕は人差し指を立て、天界へ上がるホールを空ける。
「じゃあな、輪廻転生の道でヘマするなよ?」
「うん、ありがとう。天使さん」
宙空へと吸い込まれて消える魂を、僕は片手を上げて見送った。
それまで手にしていた女子高生のリストからパッと指先を放すと、写真や死因等が書かれた紙は、青い炎に包まれ、たちまち空気に溶けて消えた。
「次は、九万とんで六人目だ」
上下揃いの白いスーツの懐に手を突っ込み、内ポケットから次のリストを取り出した。
ーー「天使の仕事って楽しいの?」
ふと先程の魂の言葉が耳に囁いた。僕はひとつ息を吐き、次の行き先へと方向を変える。バサっと二枚の羽を翻した。
今の天使業は、楽しいか楽しくないかでやっているわけではない。
これは義務なんだ。
僕が人間として生まれ変わるために、神様から課せられた義務。
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