恋人

4/5
前へ
/5ページ
次へ
師走の週末ともあって、街は賑やかだった。 アーケード街はごった返していて、歩くのもままならない。 未来と青島は自然と手をつないで、歩いていた。 そしてうどんもそばもやっている店に入って、未来は鍋焼きうどん、青島は天ぷらそばを注文した。 「誰かに見られたら、どう思われますかね?」 未来は、熱々の鍋焼きうどんと格闘しながら聞いた。 「お前ならどうだ?うちの女性社員と俺が休みの日に一緒にいるのを見掛けたら、怪しいと思うか?」 「会社の人なら怪しまないかな。だってありえないって思い込んでますから。」 「そうなのか?」 「ええ。きちんと線を引いている気はします。あとは相手にされないだろうなとも。」 「そうか。もちろん社員をそういう目で見たことはないが、冷たく感じていたのか?」 「いえ。こうなったら、とことん線を引いてくれた方が、私は安心します。」 未来があまりにも普通に言うので、青島は箸を止めて、その顔をまじまじと眺めた。 「お前でも、そんなこと言ってくれるんだな。」 どことなく青島は嬉しそうだ。 「だって、どう考えてもモテると思いますし、それに女性を振り払うことが出来ずに、されるがままっていうのは良く分かりましたから。」 淡々と言う未来に、青島は口に入れたそばを、思わず吹き出しそうになった。 「変な言い方するな。ちゃんと断った。」 「わかってます。ごめんなさい。つまらないこと言いました。」 「食べたら、部屋に戻る。」 「怒ったんですか?」 「違う。お前がまだ分かっていないようだから、存分に言って聞かせる。」 未来は途端に怖気付く。 「大丈夫です。分かってます。ね?」 それでは逆効果だ、と青島は思った。 こちらの機嫌を伺うような表情が可愛くて、やはり今すぐ部屋に戻りたくなったのだから。 それでも未来から、この辺りは久しぶりだからと 「デートしましょう?」 などと言われては無下には出来ない。 それに冬のアーケード街を、寒さにかこつけて腕を組んで歩くのは悪くなかった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加