第46話「試練」

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第46話「試練」

「何で、、もっとして、痛いのがいい」 「、、、」 「俺のこと、考えなくていいから、、痛くていいからもっと、酷くして」 呼吸を落ち着かせながら、藤崎は一度目を閉じた。 義人の言うそれが、きっとこの先何度かある事を覚悟し、飲み込んで、悔しくても時間をかけて乗り越えなければならないと思った。 「まだ自分のこと許せない?」 「え、、?」 いつの間にかぼたぼたと涙が溢れて頬を流れていた。 見開かれた目に悲しげにこちらを見下ろす藤崎が映り、義人は瞬きを繰り返して彼の頬に手を伸ばした。 「痛くしたくない」 静かな声だけれど、義人の胸にドンと響いた。 「何を思い出したの?セックスで罪悪感を消そうとしないで」 「、、、」 「無理矢理してるんじゃないでしょ。それとも嫌々俺としてるの?」 彼は痛くされたかった。 先程蘇った藤崎を裏切った瞬間の記憶が頭の中にチラついて集中できず、壊されるくらいに抱いて欲しくなった。 義人はまた罰を受けたくなったのだ。 先程、浴室で胸を思い切り噛まれたときのように痛みで全部を吹き飛ばして、裁かれたと思いたかった。 「、、、」 思い出された「裏切った」と言う事実を遠ざけたかった。 「だっ、て、、だって、久遠のこと、」 「さっきので反省会は終わったんだよ」 ぼろぼろ泣き出した義人を抱きしめて、ゆっくりと下半身を動かす。 「あっ、ぅあっ、久遠のこと、うっ」 「俺はもう全部許してるのに?さっきも言ったよね。義人が悪いんじゃないんだよ」 「あぁっあっあっ」 「自分のこと責めないで」 優しく動くそれを受け止めて、ゆっくり小さく声が漏れる。 藤崎のセックスがあまりにも丁寧で優しくて、義人は何かが胸をパンパンに膨らませて苦しくなり、また泣き出した。 「んぁっ、ああっ、」 感情の波やふとした瞬間に思い出される今日と言う日に起きた事は、きっとこの先もずっと、義人を苦しめるだろうなと藤崎は彼の頬を撫でながら考えている。 「だってぇ、うっ、嫌だ、も、戻りたい、久遠だけの、身体にッ、戻りたい、!」 それを見ているのが辛かった。 義人を守れなかったのは藤崎自身なのだ。 義人はぐちゃぐちゃに泣きながら、自分の身体を引っ掻こうと手を上げる。その両腕を、片手で義人の頭上の毛布に縫い付けるように抑え込んだ。 藤崎は泣きじゃくる義人を見下ろして、彼の身体を傷つける事も、行為を痛くする事も尚更にしたくはないと思った。 「義人、好きだよ」 「嫌だあ、戻りたい、こんなッ、こんな身体、いらない、嫌だッ嫌だ、嫌だ、うっンンッ、いや、うっ、嫌だあっ、ぁあっ」 「それでも俺は義人が好きだよ」 お互いに反省をするのはいい事だ。 これから先もずっと、今日学んだお互いの失敗や足りなかった配慮を覚えておく事は大切に思う。 けれど2人の中でセックスが、愛し合う以外の意味を持ってしまったらこの行為に意味はなくなってしまう。 藤崎が思う「愛」とそれは異なっていて、彼自身、何よりも愛しい相手に「罰」としてこの行為が刷り込まれる事が恐ろしかった。 「好きだよ、義人。俺を見て」 「あんんっ、嫌だ、あっ、あっ」 下半身に左手を伸ばし、義人のそそり立ったそれに触れてゆっくり扱き始める。 穴を突かれる快感と、性器からズクズクと伝わってくる刺激に耐えきれずだらしなく口が開いて、義人の口の端から少しだけ唾液が流れ落ちた。 「俺だけ見て」 義人の心が、藤崎にとっても痛かった。 自分がしっかりしていれば、恋人がこんなに酷い事をされる事も、自分を責め続ける事もなかったのに、と嫌になる程自分が憎い。 「こんな、の、嫌だ、取り替えて、いらないッ、いらないぃっ、久遠だけの、久遠だけ、んアッあっ、うっ」 彼が彼のままで自分を愛せるように。 どんな身体になっても自分にだけは愛されているのだと安心できるように。 今、藤崎が義人と自分の為に出来る事はひとつしかなかった。 「あっ、ぁあっ、あんンッ」 「義人、約束して」 ゆっくりと優しく、時間をかけて義人の身体を快感に馴染ませていく。 絶対に傷付けず、絶対に彼を否定せず、藤崎は正しい意味で彼を大切にする為に、焦らすように小さな刺激で穴を突いている。 「これからずっと俺しか見ない。俺にしか抱かれない。もう脅されても何をされても俺だけしかここを許しちゃダメだ」 グンッと一度強く深く奥を突くと、甘ったるくて切ない声が義人から漏れる。 茶色の視線は悔しそうに、少しの嫉妬と怒り、それから大きな悲しみをはらんで、藤崎は義人を見下ろした。 「この先俺しか愛さないで」 くに、と性器の先端をつままれ、義人の身体がびくんと跳ねる。 「守れる?」 「んっ、まも、れる、守る、絶対、あんっ」 そう言うと、段々と腰を動かす速度が上がっていく。 「んっ、、義人」 「ああっ、あ、奥、アッ」 「自分のこと、もっと好きになって」 ズッズッと義人の中が藤崎のそれで掻き回される。 「許してあげて」 甘ったるく激しい快感が義人を絶頂に引き寄せていく。 はっ、はっ、と苦しげに息が上がり、義人はとろけた顔で藤崎を見上げた。 「何回でも言うよ。今日のことを思い出すたび、何回でも付き合うから、そのたびに自分のことを許して」 「あぁあっ!久遠、アッ、んんんッ!」 奥が抉られるように深くそれがはまり、また勢いよく肉壁を擦りながら外に出ていく。 きゅうきゅうと穴の入り口が閉まって、藤崎のそれが締め上げられている。 「自分のことを愛して」 「ら、めえッ、ぁあんっ、久遠、激しいっ、すご、いッ」 いつの間にか義人の手を掴み、藤崎はその手を彼の勃起したそこまで持っていき自分でそこ扱かせる。 義人の身体はもうぐだぐだに甘くとかされていて、藤崎の激しい動きにも腰をくねらせる程慣れて、痛さは感じずに快感だけを貪っていた。 「それから、義人が愛してる俺のこと、もっともっと愛して」 「っう、あは、はっんんっ、お、まえ、それが本音、だろっ!」 「うん、そう」 泣きながら、弱々しくへなっとした笑みを藤崎に向けた。 「やっと笑った」 「あっ、ぅあっ、あっ」 「じゃ、イクまでしよう」 「やあっ、あ、あっあっあっ!!」 ガツガツと奥まで突かれ、義人は止まらない嬌声を上げながら込み上げてくる射精感を感じて性器を扱く手を緩める。 「久遠、イクッ、も、ダメ、あんっ、ダメ、ダメダメダメッ!!」 「可愛い、ッん、好きだよ」 義人の唇を塞ぎ、夢中になって腰を振った。 義人は先程とは違うとろけた優しい顔で、幸せそうにその動きを受け入れて喘ぐ。 痛みも気持ちの悪さもない。 (愛、され、てる) 誰とでもいいセックスとは違うのだ。 自分と藤崎だからこそ、成り立つこの行為がある。 (愛されてる、久遠に、こんなに、) 義人自身も自覚をした。 この先何度も何度も、自分は思い出したり思い出さなかったりして、こうやって藤崎に許して、と喚き立てるのだろうと。 どうしても自分が許せなくて、裁かれようともがくのだろうと。 けれどそれを何度も藤崎と乗り越えなければならない。 (愛してる、久遠だけを愛してるから) 2人でいたいのなら、そうやって乗り越えなければいけない。 「イクッイクうッ、イキたい、久遠、アッアッ」 「なに?なんて言うんだっけ?」 肩で息をし、藤崎は欲情で染まった目で義人を見下ろし、誘うように見つめた。 「イキたいッ、いっ、いっく、イッて、あっ、イッて、いい?、んっふ、」 気持ち良さと幸せを感じて、義人はぼろぼろと泣き出した。 こうやっていくら迷惑を掛けても藤崎は自分のそばに居続けてくれるのだと、それだけは確かに理解できて、これがどんなに幸福な事だろうと胸がいっぱいになった。 足りなくなるたびに藤崎が足してくれる愛を、少しずつでも自分も返していきたいと願った。 「ちゃんと言えたね。いいよ、イクところ見せて」 藤崎のその言葉に義人のストッパーが外れる。 もう頭の中は空っぽで、ただただ目の前にいる男が好きだった。 「イクッああっああっ、久遠、ンアッ、あッ!」 舌が邪魔で呼吸ができず、だらしなくそれをエッと口から突き出して息を吸った。 「はあ、、やらしい顔、それ、他の男に見せないで」 義人のはしたない表情に、藤崎は痛い程自分の肉棒を膨らませて硬くした。 「はあ、義人、」 「うっく、ダメっ!ダメ、ダメえッ、あんっ、いっ、あんんっ、、ッん、ぁああッ!!」 ビクッビクッと身体が痙攣し、義人のそれからドッと精液が溢れ出る。 胸に飛び、何回かに分けた射精が済むと、詰まっていた息を吐き出して酸素を求め荒く呼吸を繰り返した。 「あっ、ひっ、んんっ、ンッ!」 藤崎は絶頂した後の義人のギュウッと絡み付いてくる肉壁をその後も何度か擦り、しがみ付くように締め付けが増した穴の入り口の感触が気持ち良過ぎて、義人の中に思い切り射精した。 「んんっ、!」 「ッく!、はあっ、、はあっ、、」 肩で呼吸をする。 顎をつたって汗が義人の白い肌に落ちて行くのを眺めて息を整え、入れたものを抜かずにそのまま義人に口付けをした。 「可愛い」 愛しくて堪らない美しい男を見下ろして彼は取り憑かれたように魅入りながらポツリと呟いた。 「んっ、、久遠」 「ん?」 「、、好きだよ」 力尽きているくせに、頬に触れてくる手は優しくて、自分よりも少し低い温度をしている。 「久遠だけが好き」 へにゃ、と笑う顔を見て、藤崎は泣きそうな顔をして義人にもう一度キスをした。
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