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第57話「挑発」
欠伸をしながら駅からマンションまでを歩いていく。
日の落ち切った道には人影はなく、ポツリポツリと道端に間隔を開けて立ち並ぶ街灯が煌々と白線を照らしている。
「競争しないか」
まるでどこかの映画に出ていた俳優が女性をダンスに誘うかのように、藤崎はそう言って笑った。
「は?」
「よーいドン!!」
「ズルすぎるだろ!!」
ダッと走り出した藤崎の後を追い、義人は住宅街の夜の匂いを肺いっぱいに吸い込んで走った。
「佐藤くんおっそ!」
「お前図体デカいんだからハンデよこせ馬鹿野郎ッ!!」
「ハッハッハッハッ!脚長いって言って!」
バタバタと夜道を走る二つの足音に、どこかの犬が吠えている。
2人はそんなもの気にせずにマンションの階段の下まで一気に走り抜けた。
「ブッ、はあッ!はあ、はあっ、はあっ」
「んんッ、さす、がに、、運動不足2人には、キツかったか」
「何考えてんの、お前、うえっ」
一瞬込み上げてきたパスタとピザとアルコールを何とか胃に飲み戻し、義人はまた息を整える為に激しく呼吸をする。
藤崎も、熱くなってきた気温のせいもありだいぶ汗をかいていた。
「ダメだ、風呂、シャワー、死にそう!」
「一緒、、一緒に入ろ」
「イヤだよ!!」
義人はパシッと藤崎の頭を震える手で叩き、そのままプツプツと筋肉の震えが止まらない脚で階段を一段ずつ上がっていく。
「行かないでぇ」
「はーやーくーしーろー!」
毎度藤崎に鍵を開けさせている彼は自分で開けるのが面倒で、階段下でこちらを見上げてもにゃもにゃ言ってる藤崎を一度迎えに行き、階段の手摺りを右手で掴ませ、背中をグイグイと押して上がった。
「これ楽ぅ〜」
「自分で歩け!重い!!」
身長のせいで重いだけだが、義人は憎まれ口を叩きながら、それでも藤崎をドアの前まできちんと押して届けた。
ガチャン、とポケットから出した鍵でドアを開けると、いつも通り義人を先に押し入れる。
「どーぞ」
「どーも」
中に入ると、いつも通りの部屋の匂いがした。
「っぷはぁー、、」
靴を脱いで廊下に上がると、わざとらしく大きく義人がため息をつく。
不思議そうにその背中を眺めながら、クス、と笑った藤崎も靴を脱ぎ、廊下に上がって彼の背後に立った。
「どしたの?」
「んー。藤崎、ちょっと、ギュッとしてみ」
「、、え?いいの?ちんこ触るよ?」
「触んなよ」
シュルシュルと布ズレの音がして、藤崎の腕が後ろから義人に絡まってくる。
「あ。汗臭いわ今、ごめん」
「臭くないよ。俺の好きな匂い」
絡まった腕が、腹の前で指を絡めて手を組んで落ち着く。
廊下から見えるリビングには、使い慣れ、何度もベッド代わりにしたソファと、最近少し傷をつけてしまったローテーブル。初めてこの部屋に来たときと変わらないテレビ、里音の趣味だから買い替えたいと言う藤崎と選びに行ったカーテン。ふわふわのラグ。実家から持ってきてやたらと増やしてしまったゲーム機類。携帯電話の充電器。雑誌。
そんなものが散らかっている。
「義人」
「んっ、」
自分の背中にべったりとくっつき、首すじに顔を埋めて、汗臭いと言った匂いを鼻の奥まで吸い込んでいる男に名前を呼ばれた。
「だから、やめろって」
「でもセックスのとき汗かいても気にしないじゃん」
「いや、実は結構気にしてる」
「え?そうなの?え?て言うかじゃあ俺は?俺の方が汗かくんだから、臭くない?」
不安げな声が耳元で聞こえる。
顔を上げてこちらを向いている事がわかったが、義人はそちらを向きもせずリビングを見ながら笑った。
「あはは、気にしたことないわ」
腹に置かれた藤崎の手を自分の手で包みながら、彼がよろけない程度に後ろに寄り掛かる。
「1年経ったんだあ」
気の抜けた声だった。
それからは安堵が漏れ、少しの気の重さが漏れ、噛み締めるように聞こえた。
「どうだった?1年、俺と付き合って」
「んー、めんどくさかった」
「はーあー??」
「あと、思ってたより大変。幸せで、少し恥ずかしかった」
「、、、」
きゅ、と自分の手に重ねられた義人の手が力を込めるのを感じて、藤崎は思わずそこを見下ろす。
「、、、」
あの教室で、あの日、自分に鉛筆の入ったケースを手渡してくれた震える手。
白くて細くて長い指。綺麗な形の爪。それが今はこうして、いや、1年もの間自分のもので、ここにある。
「好きだよ、義人」
急に切なく、胸がいっぱいになった藤崎は彼を抱きしめる腕に力を入れた。
「、、なあ、」
「ん?」
「しよっか」
今度は恥ずかしそうな声だ。
顔を上げて見つめた彼の横顔は、勿論アルコールのせいではなく赤く染まっている。
「セックス」
そんな言葉、初めの頃は中々言わなかったくせに。
「いいの?」
スリ、とわざと左手で彼のそこを撫でると、思っていたよりも激しくビクンッと身体が反応した。
「ぁンッ」
「ねえ、いつからシたかった?」
「バカ、待って、風呂入ってからっ」
形を確かめるように柔く揉むと、やはり思っていた以上に小刻みに身体を揺らして腰を曲げる。
「いつから?」
「あっ、あっ」
「義人、教えてくれないの?、、ッん、!」
ぐり、と服越しに義人の尻が藤崎のそこを擦るように押し付けられ、思わず小さく声が漏れた。
「お前が、俺の為に髪切ったって話のときから」
「ッ、、わあ、何それ。むっつり?」
バチンと音を立ててリビングの電気をつけ、挑発的な義人の態度にニッと口角を上げた藤崎はガッと彼の手首を掴んで有無を言わさず寝室へと連行して行く。
「え、だから風呂は!!」
「ヤッたら入る。ヤったら」
電気をつけずに寝室の奥まで行き、ポイっと義人をベッドに放ると棚の上の間接照明に明かりを灯し、ドアを閉めて戻ってくる。
「一回ヤったら入るからな」
「うっわ、なに、今日。めっちゃ挑発してくるじゃん」
ベッドの上でストリップでもしているかのようにゆるゆるとTシャツを脱ぎ、発情しきった煽るような黒い瞳が藤崎を捕らえた。
「えっろ」
もろに股間に響くような態度だ。
「さっさと脱げよ。1人で風呂行くぞ」
「ダメ」
裾を掴み、腕をクロスしたまま上にあげて頭を抜いてTシャツを脱ぎ捨て、藤崎はずりずりとベッドに上がった義人に跨ってベルトを外し始める。
「邪魔」
負けじと義人も自分でベルトの金具を外し、ズボンのボタンとジッパーを下ろす。途中で藤崎の割れた腹を蹴りながらズボンを床に捨てると、同じようにボクサーパンツだけになった藤崎の股間に足をつけた。
「早く」
グイグイと性器を足の裏で押し、藤崎を煽った。
「可愛い過ぎる」
「うるさい早く」
「好きだよ」
「うっせー」
覆い被さる藤崎にとろんとした顔を見せながら、彼の首に腕を絡めて引き寄せ、キスをねだって愛しそうに目を細める。
「何でこんなにいやらしくなったの?」
焦らすように頬を撫でられたが、それすら愛撫のようで肌同士が擦れる感触が気持ちいい。
「久遠好みだろ」
深い茶色の目がこんなにも近くにある事は、まだ彼の中では信じられないくらいの奇跡だった。
「うん、めっちゃタイプ」
誘うように義人がべろ、と舌を出すと、すぐに藤崎の舌が絡まって、噛み付かれるようなキスをされた。
「っん、んぁっ」
ピンっピンっと優しく両方の乳首がはじかれると、キスの合間に何とか酸素を肺に入れ、うわずっていく呼吸を無理矢理繰り返す。
「可愛い」
嬉しくなかった筈のこの言葉のせいで、簡単に理性が崩れて自分から藤崎を求めるようになった。
ぐずぐずに甘やかされる事が好きになって、藤崎が自分の為だけにこの世にいるこの時間が酷くクセになった。
「あっはあんっ」
「可愛い、義人」
下着にシミが出来ている。
冷たく濡れた布が熱い肌に当たるから分かる。
勃起した性器に藤崎の左手が絡まって、キュッキュッと先端をつまみ上げて刺激すると、面白いように義人の腰が浮いた。
「可愛い。ご飯食べてるときからセックスしたかったんだ?」
「ンッ、んぅっ、んっ!」
唇が離されると必死に横を向いて藤崎の視線から逃れた。
そう、ずっとこんな事を考えていたから。
「また教えてくれないの?」
「あぅっ、んっ、、アッ、ぁあっ」
下着がずり下ろされ、ぷるんっと義人のそれが外気に触れる。
「よく勃起しなかったね?」
ちょん、と尿道の入り口に藤崎の人差し指が乗り、くるくるとそこで円を描いて遊ばれる。
「ぁあうっ」
小さな刺激の筈が、アルコールの勢いと我慢し過ぎた義人の身体は敏感でそれすら声が出る程気持ちが良い。
「あっ、く、おん、だって」
「ん?」
「帰ったらっ、て、ンやっ、、か、考え、ンッ、なかったの?」
ゆっくりと上下に扱かれ始めたそれと、藤崎が乳首に吸い付いた快感が混ざっていく。
ひく、ひく、と何かされるたびに腰がうわつき、義人は肺すら震わせながら呼吸をしている。
「、、考えてた」
「っ、ふはっ、お前もじゃん」
両親に対してへにゃへにゃ笑う彼を見て少しもやもやしていた藤崎は、確かに何度か「抱き潰す」と思ったり、自分の秘密がバレたときに酔っ払ったままからかってきた義人に対して口に出す程、「覚えてろよ」と思っていた。
今日は帰ったら7回は抱く、など。
確かに義人の言う通り、後ろの穴がぽっかり開いたままになるくらいには抱く気でいる。
「からかったもんな、俺」
「そうだよ。俺のピュアな純愛をバカにして笑っただろ」
「はっはっはっ、あれ本当におもしろ、ンンッ!」
「その辺にしないと今日10回抱くよ」
「あっ、ひっ、んんンッ、」
じゅっぽじゅっぽと音が鳴る程激しく性器を擦られ、いつの間にか用意されていたローションを脚の間に垂らされる。
毎回コレで使えなくなる問題が多発してから、仕方なく毛布を4枚程増やした。
「んっ、ぁんっ、あっ、あっ」
おかげで毎日洗濯機は忙しそうだし、藤崎は遠慮せずローションを使うようになってしまった。
「反省した?」
「んっ、だめ、気持ち、いっ、あんっ」
「お仕置きにならないじゃん」
痛くない程度に乳首を甘噛みされる。
「んぁあっ」
「可愛い」
「んっ、久遠、んっ」
「ん?」
彼の胸元から顔を見上げると、枕を掴んでいた手がフッとこちらに伸ばされ、へにゃ、と笑う顔が見えた。
「おいで」
熱っぽい言葉だった。
「っ、、」
煽られた自分のそこが熱くなるのを感じる。
「久遠、んんっ、可愛い、よ。髪、切って、アッ、んっ、、切ってくれて、ありがとう」
「あー、、もう、」
求められるままにキスをすると、積極的に熱い舌が絡められ、藤崎はそこが苦しくなって右手で不器用にボクサーパンツを脱いだ。
「長くても、格好、良さそうだけど、ね」
とろけた顔でへにゃ、と笑う義人を見て、もう理性は完全に飛んでいた。
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