白から黒

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白から黒

中川春樹は工場勤務で、日勤・夜勤と不規則な生活のせいか寝たい時間に眠れなくなり睡眠薬を処方してもらうために街の小さな心療内科に通い始めた。 日が落ちた夕方、作業服のまま受付を済ませて待合室のソファに座る。 この時間はけっこう混んでいて、いろんな人がいる。 たまに存在しない誰かと会話している重症な人もいるが、付き添いの人と小声で会話していたりスマホをいじったりして、大体は静かだ。 なんとなくまわりと見渡すとひとりの青年と目が合った。 焦る中川に、彼は微笑を浮かべて小さく会釈して読んでいる文庫本に視線を落とす。 初めて見る人だなと思って中川はチラチラと見てしまう。 黒い短髪に青い作業服の自分とは違って、青年は長めのブラウンの髪、大きめの黒いTシャツに黒のレザーパンツの黒一色。中性的な顔。 畳んで膝に置くコートも黒だった。 お洒落だなと思いつつ社会人には見えない。年は自分と同じくらいに見えるがまだ学生なんだろうか。 妙に気になって中川は青年を観察してしまった。 「鈴村さん、どうぞ」 名前を呼ばれて青年は立ち上がって診察室に入っていく。 ずっと通っているのか、それとも今日は予約時間をずらせたのか、中川は通院しだしてけっこう経つが初めて彼を見た。 そんなことを考えていたら5分もたたないうちに青年はすぐ診察室から出てきた。
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