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エアコン以外の音がない部屋に、鈴村の小さな泣き声が聞こえる。
「俺は蒼汰に無理強いしたおぼえはない。嫌ならここで終わろう」
拓海は倒れている鈴村を少し起こして顔を自分に向けさせて、口端から流れる血を舌で舐め取った。
「でもひとりで生きていけるか?俺がこれを高値でさばいてお前に1番カネ渡しているんだぜ。ほかの奴らは小遣い程度だ」
「…僕が‥ひとりで頑張るから」
重そうなまぶたをゆっくり開いて鈴村は涙目で拓海を見上げた。
「蒼汰が1番頑張っているのはわかってるよ。だからもっと頑張れ。俺たちの未来のために、今は協力してよ」
拓海はリモコンを手に取り、部屋の照明を少し暗くする。
「殴って悪かった。ごめん…」
鈴村をゆっくり仰向けにして、腫れている頬をそっと指でなぞった。
「冷やそう。保冷剤あるかな。氷でもいい」
涙でゆがむ視界のなか立ち上がって冷蔵庫に向かう拓海の姿を見つめたまま起き上がる。
「横になってろ」
氷を入れた半透明のビニール袋をタオルで巻いて鈴村に手渡す。
「これで冷やせ。俺は帰るから」
「…逃げるの?」
何か言いたそうな鈴村をしばらく無言で見つめて、拓海は冷たいタオルを取り返して鈴村の頬にそっとつけて頭を自分の肩に引き寄せた。
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