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____けれど。
(あんなところに、お店なんてあったっけ……?)
思わず立ち止まった思音の目に留まったのは、すでに人影の消えた通りにひっそりと立つ店だ。ポツポツと灯る電気が周りの家を飾っている。
思音が店に気づいたのは、店頭にいるおばあさんが古びたほうきで店の前の階段と道を掃いているからだった。
ゆるいウェーブのかかった白髪交じりの髪を肩まで垂らし、丸眼鏡をかけた目はじっと足元を見つめている。
その後ろの二階建ての家はのぼりも看板もないが、ドアの上に掛かった板にびっくりするくらいの達筆で『思い出屋』の四文字が並んでいたので、店らしいと判断できた。
不思議なお店の名前だな、と思音が思っている間も、おばあさんはほうきを動かす手を休めない。
サッ、サッ。
サッ、サッ……。
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