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「わぁ、あったかい!」
……とはいっても、真冬の夕方に外を歩き回っていた小学五年生が、あたたかさという誘惑に勝てるわけはない。
ソファーに机、小さな棚。普通のリビングとしか思えない店に違和感を抱く余地もないほど、思音はリラックスしていた。
たまご色の照明に照らされた店内をとろけそうな顔で見回す思音を、おばあさんはソファーに誘う。
「そんなとこに立ってたら疲れるわ。こっちに座りなさい。そのほうが私も仕事をしやすいし」
「仕事……あっ、あの、すみません! 私お店に来たわけじゃなくて、その、あっちの商店街に行こうと思っていて」
「それなら、ここで少しは温まってからにしなさい。商店街には夜の十時くらいまでやってるお店もあるでしょ? ちょっとくらいゆっくりでも大丈夫」
おばあさんはどうあっても引き留めるらしい。
「いやでも私、お金(少ししか)持ってないんですよ!」
嘘は言っていない、ちょっと省略しただけ……お財布を持っていることが分かったらますます商魂に油を注ぐことは間違いないと判断して、心の中で言い訳しつつ叫ぶ思音。
それは、
「お金の心配ならしなくていいのよ? 私はお金なんてとったことないから」
という、おばあさんの爆弾発言に無意味に終わった。
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