【予鈴編】

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【予鈴編】

 あの日、僕は偽りのない笑みから深く果てしない愛を、そして容赦なく内から滲み出る絶望を教えられた。  まさか全ての始まりが僕だったなんて、最後の最後まで思いもしなかったんだーー ☆  シーンとした冷たい校舎。まだ晩秋のはずだが、妙に寒さを感じる。その理由は分かっていた。  窓という窓は全て締め切られ、外側からシャッターのようなもので覆われている校舎。さらに廊下は室内照明だけが照らし出すという、異様な光景が広がっているのだ。教室などの部屋は明かりこそついているが、中に人の気配は無さそうで固く閉ざされている。いつもなら引き戸のガラスは透明なのに、何故か曇っていて何も分からない。至る所がいつもと同じようで、いつもと違うのだ。この異質な空間や雰囲気が、この身と心を寒くさせてくる、最大の原因だろう。  とかく人気のない校舎は、まるで夜の学校を彷彿とさせるところ。しかし、実際のところ時間さえも分からない。さっき壁にかかる時計を見たが、針が無くなっていたのだ。まるで異空間に入ったように不可思議な場所に感じる。  いったい何が起こっているのか、今がいつなのか……何も分からないのだ。そこから生ずる恐怖と不安は、時間に比例して僕の弱い心を締め付けていくばかりだった。
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