#11 幸せを願うこと

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#11 幸せを願うこと

    +  +  エレベーターを降りると待合室の一角にひとり、美佳さんが座っていた。気づかないふりをするにはあまりに近い位置だった。  美佳さんも僕たちに気づき、自分の座っているテーブルに指先を向けた。こっちへ来い、という意味だ。僕は助けを求めるみたいに秋夫を見る。秋夫はもちろん、自分には関わりない、という顔をしているんだけど。  僕がもぞもぞしている間に、美佳さんは自動販売機へと歩いて行った。缶コーヒーを二本買っている。僕と秋夫の分らしく、手に持ったまま顎の先でテーブルを指した。秘密を抱えたまま美佳さんと向き合うのは息苦しい。けれど「どうする? 秋夫」と小声を向けたって秋夫が僕をこの場から引き離してくれることは期待できない。僕はあきらめて、美佳さんの誘導に従った。  厳しい顔つきのまま、美佳さんは缶コーヒーを僕たちが座った前に置いた。 「すみません」  頭を下げた。秋夫は黙ったままだ。それに対抗するわけじゃないだろうけど、美佳さんもそのまま口を閉ざしてしまった。耐え切れず話しかけた。 「あの、大丈夫ですか?」  言ってから、なんでそんなことを、と自分自身につっこみつつ、でも昨日の勝ち誇ったような顔つきの美佳さんとは対極の、思いつめた表情を見ていたら咄嗟に口から出てしまった。 「別に、どうもしないけど」  覇気のない声で美佳さんは言って、迷子みたいに視線を彷徨わせた。  また少し沈黙が出来る。けれど今度は美佳さんが口を開いた。 「あの子に会うの?」 「……はい、お見舞い、に来ました。すみません、昨日の今日で」 「ほんとに図々しい」  僕は小さくなる。確かに、その通りだ。 「――――で、昨日、園子と、なにか話した?」  なにかっていうのは……、と独り言を言うみたいにして聞き返した。 「園子から、なにか相談でも、されたとか?」 「……」  僕は控えめに秋夫に視線を向けた。ようやく気づく。美佳さんは、僕たちに聞きたいことがあってここへ座らせたことに。 「だから、今日も来たんじゃないの?」 「……」  探るような時間が永遠のように続きそうで、僕は口をぱくぱくさせた。酸素が薄い。そしたら僕の脇から秋夫が直球を投げた。 「園子の目が本当に見えてねぇのかってことだろ、あんたが俺らに聞きたいことは」
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