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#14 レイラ
* *
「ほんとうに、ここ?」
僕はもぞもぞした。僕たちが立っている歓楽街には性風俗産業特有のけだるさと湿った熱気に満ちていた。
「おまえが美佳に直接聞いたんだろ」
「そ、そうだけど」
秋夫の言うとおり、自分の耳で聞いた場所はここで間違いない。
目の前の看板に書かれた店名を口の中でなぞってみる。綺麗な響き。爽やかなイメージしかない。確かに、ここだ。だからこそ信じられない。
もう一度、店名とその脇にあるパネルを見た。半裸の女性が三人、ポーズを決めて映っている。パネルにはショータイムの時間が刻まれている。
「まさか、こんな恰好で踊ったり、してるんじゃないよね?」
僕は心配になる。
「どっちでもいいだろ、そんなの。とにかく入るぞ」
葛藤する僕をいつものようにすぱっと切って、秋夫はドアを押した。
「あ、秋夫待って、置いてかないで」
慌てて秋夫の背中を追って扉の中へと入った。
店内は広く、それぞれのコーナーに革のソファとテーブルが置かれていた。ステージは真ん中にあって、スポットライトは奥のグランドピアノに当たっている。
「いらっしゃいませ」
黒服の男が寄ってきた。僕は秋夫のシャツを引っ張った。僕たち、客じゃないよね。口をぱくぱくさせて訴える。秋夫が僕の代わりに答えた。
「瀬尾美佳に用がある」
「はい?」
「ここに来るように言われてる」
壁際で控えている男が小走りにやってきて黒服に耳打ちした。
「こっちだ」
客じゃないと分かると黒服はぞんざいな口調になった。
「入れ」
狭い通路の先にあるドアが開いた。途端に化粧品や香水や、それから食べ物と煙草の入り混じった複雑で濃い匂いが鼻についた。恐る恐る中へと足を進めると、十五畳ほどの控室には十人前後の女の人たちが化粧をし、なにかを食べ、笑いあっていた。
「レイラ、客だ」
黒服が奥に向かって言った。声に反応してひとりの女性が振り返った。
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