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夜になると、従妹の芙美がやってきた。夕飯の支度をする母さんとバトンタッチで瀬尾さんの前に座る。
「はじめまして、園子ちゃん。洵のいとこの芙美です。――園子ちゃんって呼んでいい?」
初対面から馴れ馴れしすぎて大丈夫かな、とハラハラする。けれど僕の心配をよそにふたりはすぐに打ち解けた。芙美は饒舌だった。昔から他人と喋ることが好きな女の子だった。だからこそ、老人相手のへんてこなバイトをやっているんだよなと、改めて感心した。
ダイニングテーブルに夕食が並び、僕たちも移動した。
「あれぇ、秋夫くんはまだ?」
時計を見上げて芙美が聞いてくる。
「今日はスタートが遅かったからいつもと時間帯が違うんだって」
瀬尾さんを座らせながら教えた。芙美はアルバイトで遅い俊哉の場所に座った。
「なんで今日に限ってぇ」
「あー、まあ」
濁した。僕が、瀬尾さんを迎える時間に秋夫に一緒にいてくれるよう頼んだせいだった。
「ふうん」
芙美はつまらなそうに唇を尖らせた。
そういえば、芙美は初対面から秋夫に平気で絡んだ。耳を触ってピアスの穴を数え、太い筋肉質の腕を見て、上半身も見せて! と強烈なおねだりをしたり、ある意味秋夫と似たり寄ったりの傍若無人ぶりだった。秋夫はというと、シャツを捲って割れた腹筋を見せて、俺も見せたんだからおまえも見せろ、と軽口を叩いたりして僕にカルチャーショックを与えた。
「――そっかあ、秋夫くんいないんだ」
夕食を食べ始めながら芙美がまた秋夫の不在を嘆いた。
「芙美ちゃんはずいぶん秋夫くんのことが気になるのね」
母さんの指摘に芙美の頬がおもしろいほど簡単に赤くなった。僕は、箸でつかんだじゃがいもを取り落とした。――えっ? まさか! 芙美が秋夫を? 全然気づかなかった。
「そんなんじゃないよっ」
必死に否定する芙美は話題を逸らそうと、瀬尾さんの皿に料理を取り分ける。隣で僕が世話をしているのだから芙美の手は必要ないのだけど、その照れ隠しの行動が興味深くて僕は黙っていた。
「な、なによ」
僕の視線に気づき、芙美が赤い顔で睨みつけてきた。
「別になにも言ってないよ」
状況が伝わっていないだろう瀬尾さんにも説明した。――芙美は秋夫が好きなんだって。
このあと、芙美が激しく否定したのは言うまでもなかった。
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