#18 冬が来た

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#18 冬が来た

 僕は教習所へ通いながら、恭二くんのことを調べた。だがどちらも簡単じゃなかった。特に運転免許の取得は絶望的ですらあった。  学科も実技もスムーズなのにどうしても試験に受からないのだ。理由はひとつだ。試験会場でが出てしまう。  僕を憐れんだインストラクターの屋代が声を掛けてくれた。伴われて併設のカフェへ入った。ホットコーヒーを奢ってくれ、悩みがあるなら聞くよ、と優しく言われ――、僕は自分自身への情けなさも手伝って洗いざらい話した。試験になると手が震えて字が書けなくなること、大学受験もそれで失敗してしまったこと、何年も心療内科の世話になっていること、それから目の見えない友人の足になりたくて、どうしても車の免許を取りたいのだということも。  屋代は真剣に聞いてくれた。最後に彼は言った。出来る限り力になる。大丈夫、心配するな、と。    そしてもうひとつの方――  恭二くんのアリバイ崩しも難航していた。  美佳さんから聞いた交遊録を元に、秋夫のアルバイトが休みの日にその友人知人を訪ねた。誰かが恭二くんの恋人について知っているはずだと思った。けれど誰に聞いても答えは同じだった。恭二くんは特定の恋人を作らなかった。友達以上恋人未満の女の子(女の人も)は両手の数を超えて存在したのに。 「モテすぎるのも考えもんだな」  秋夫は投げやり気味に言った。 「どっちにしても園子は特別じゃなかったってことか」 「そうだね」  僕も同意した。その都度写真も見せたが、瀬尾さんは誰の記憶にも残っていなかったのだ。  僕たちは恭二くんサイドからの情報収集をいったん止めることにした。視点を変え、瀬尾さんの両親が懇意にしていた人たちに話を聞いてはどうかということになった。娘の恋愛について誰かに相談していたかもしれないし、もしかしたらトラブルを抱えていて、別の誰かに殺された可能性もあるんじゃないか、ということに思い至ったからだ。  まず瀬尾さんの父親を慕っていたという元部下に聞きに行った。
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