#03 秋夫と映画

2/3
前へ
/92ページ
次へ
「あ、DVD」  数枚の中から一枚を引き抜いた。80年代のアメリカ映画だった。 「たぶん洵の好みだ」 「僕の?」 「平和なラブコメ。おまえ、この系統が好きだろ。あと、最近はメグ・ライアンにハマってる」 「え」  どうして知ってるの、と続く問いを先回りされた。 「レンタルデータを見れば一目瞭然」  秋夫は事もなげに言う。 「洵が今までに借りた履歴は全部残ってる」 「うそ!」 「普通そうだろ」 「え、ってことは、えっと」  あれ、とか、あれ、とかあれを借りたことも?! 僕の動揺を鼻先であしらって秋夫は言った。 「犯罪者にでもならなきゃ外には漏れない。心配すんなよ」  そういうことを言ってるんじゃない。現に、君にバレてるじゃないか! 「それにしても今からメグ・ライアンって珍しいだろ」  履歴を覗かれた恥ずかしさで、つい口を衝いた。「好きになるのに遅いも早いもないよ」 「まあ、そうだ」  そしたら秋夫から素直な言葉が戻ってきた。僕は一瞬ぽかんとしてしまった。――これが、大袈裟に言えば秋夫とコミュニケーションが取れた初めてのやりとりだった。 「メグ・ライアンが好きならこれも外すなよ」  もぞもぞしていると、秋夫が袋から一枚を引き抜いた。トム・クルーズ主演の戦闘機モノだ。僕は首を捻った。 「でも、この映画に彼女は出てないよ」 「出てるって」 「勘違いじゃないの」 「父親が持ってんだよ、俺も何度か観てるし間違いねえって」 「嘘だあ」  それから僕たちは瑣末な言い争いをした。自分たちより随分年上の彼女について、まるで同世代みたいな口ぶりでその魅力について語り、イチオシの名シーンを披露しあった。 「鈴木くんは誰が好きなの?」  僕は、もっと映画について語り合いたくて早口になった。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加