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「あ、DVD」
数枚の中から一枚を引き抜いた。80年代のアメリカ映画だった。
「たぶん洵の好みだ」
「僕の?」
「平和なラブコメ。おまえ、この系統が好きだろ。あと、最近はメグ・ライアンにハマってる」
「え」
どうして知ってるの、と続く問いを先回りされた。
「レンタルデータを見れば一目瞭然」
秋夫は事もなげに言う。
「洵が今までに借りた履歴は全部残ってる」
「うそ!」
「普通そうだろ」
「え、ってことは、えっと」
あれ、とか、あれ、とかあれを借りたことも?! 僕の動揺を鼻先であしらって秋夫は言った。
「犯罪者にでもならなきゃ外には漏れない。心配すんなよ」
そういうことを言ってるんじゃない。現に、君にバレてるじゃないか!
「それにしても今からメグ・ライアンって珍しいだろ」
履歴を覗かれた恥ずかしさで、つい口を衝いた。「好きになるのに遅いも早いもないよ」
「まあ、そうだ」
そしたら秋夫から素直な言葉が戻ってきた。僕は一瞬ぽかんとしてしまった。――これが、大袈裟に言えば秋夫とコミュニケーションが取れた初めてのやりとりだった。
「メグ・ライアンが好きならこれも外すなよ」
もぞもぞしていると、秋夫が袋から一枚を引き抜いた。トム・クルーズ主演の戦闘機モノだ。僕は首を捻った。
「でも、この映画に彼女は出てないよ」
「出てるって」
「勘違いじゃないの」
「父親が持ってんだよ、俺も何度か観てるし間違いねえって」
「嘘だあ」
それから僕たちは瑣末な言い争いをした。自分たちより随分年上の彼女について、まるで同世代みたいな口ぶりでその魅力について語り、イチオシの名シーンを披露しあった。
「鈴木くんは誰が好きなの?」
僕は、もっと映画について語り合いたくて早口になった。
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