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#04 アルバイト
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「なんで僕も?」
「どうせ暇だろ」
出勤して一時間もしないで戻ってきた秋夫はすでに準備万端で、僕が着替えるのを腕組みの態で急かしている。
「しょうがねえだろ、俺、この辺知らねえし」
「嘘の住所なんか書くからだよ」
秋夫がアルバイトを始めたレンタルショップは他店との差別化を狙って【七本以上のレンタルで無料宅配・最長三週間貸し出しOK】のサービスをしている。人手不足もあり、入ったばかりの秋夫に配達の仕事が割り振られたらしいけど、そもそも僕が履歴書の資格欄に二輪免許を書くよう提案したせいだった。多少の責任は感じるけれど、でもそんなことより――
そろそろ帰ってくる母さんに秋夫をどう紹介しようか、僕は頭を悩ませていた。伯父さんには昨日電話で、弟にはメールで『友人を部屋にしばらく泊めることにした』と報告したが、弟は珍しがり、伯父さんは訝しがった。ふたりの反応はまっとうだと僕も思う……。秋夫には家族が不在だってことはすぐにバレた。夜が更けても僕の部屋以外物音がしない家なんて、どう考えてもおかしいから仕方がない。
僕はのろのろと靴下を履いて無駄な抵抗をした。
「バイク乗ったことないよ僕、ヘルメットもないし」
「ある。店の倉庫から持ってきた」
「ドロボーじゃないか」
「借りただけだって」
「黙ってだろ?」
「誰でも自由に使っていいって意味で置いてあるんだ」
「まさか」
相変わらず牽強付会な秋夫にはもう慣れた。
「行くぞ」
「痛っ」
準備が終わったら秋夫に腕を掴まれた。僕は思わず叫んだ。
「触っただけだろうが。っんとにひ弱だな、洵は」
「いや絶対、みんな僕と同じ反応するって」
「そんなわけねえだろ」
「……」
人間は自覚をしていないことが、一番の武器なんだろうなと腕を摩りながら思う。
外に出ると、小ぶりのオフロードバイクが停まっていた。
「ちょっと待って、これで行くの?」
「配達用のバイクが故障中なんだと。これは店長の通勤用」
「……大丈夫なの?」
「『事故ってもいいけどバイクは無傷で返せ』って無茶苦茶だろ」
秋夫に貸すにあたって裏道で軽いテストがあり、秋夫は楽にクリアしたっそうだ。
「安定感なさそうだよね」
「心配すんなって」
「ほんとにほんと?」
「いいから早く」
これ以上は引きのばせず、僕はあきらめてバイクに跨った。
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